両利きの経営「生産性が下がる」残念な会社の盲点 ハーバードで学ぶパフォーマンスを高める方法

拡大
縮小

日本企業の現場力としてしばしば言及されるのが生産およびその改善活動です。しかし、これは一見すると矛盾する動きです。生産活動とは既存のルーティンにしたがった活動のことです。一方、改善活動はそのルーティン自体を変更しようとするものです。このように生産と改善は矛盾するものであるにもかかわらず、多くの日本企業の生産現場では、両者の高い水準で両立を実現しています。

これが可能なのは、やはり生産性が鍵になっているのです。生産性が高まると生産活動も効率的になり、WTSは下がります。生産性改善によって職を失うことにならないかぎり、それに対して反対する人はだれもいないでしょう。そして、その生産性を高める活動が改善活動になります。

したがって、改善活動をすることは、生産活動を支援することでもあり、両者は何の矛盾もなく両立させることができるのです。さらに、生産性が向上すれば、それは製品・サービスの品質向上につながり、WTPの改善にも寄与します。このように生産性を改善することが、戦略の両利き性を実現する鍵となるのです。 

深化と探索も、生産性改善が鍵に

それでは深化と探索についてはどうでしょうか。ここでも生産性改善が鍵になるように思われます。深化を進めていくなかで生産性を改善すれば、そのことがWTPに直結します。既存顧客のWTPを高めるだけでなく、そのWTP向上を別のターゲットへも適用できる可能性が浮上します。このような可能性の追求こそが探索活動になるのではないでしょうか。

この探索活動は、ゼロベースでの優位性のない探索ではなく、すでに実現した生産性向上をレバレッジとした活動なので優位性がある状態からのスタートになります。そのことによって探索の成功確率を高めることにつながるのです。

深化と探索、差別化戦略とコスト・リーダーシップ戦略などトレードオフと考えられている活動は、どちらか一方に特化し、両者を追求したければ、各々に特化したサブ組織へと分離させることが推奨されてきました。

しかし、これは両者の補完的な関係性を無視しているため、成功確率は低くなります。重要なのは、両者の補完性を考慮にいれた一石二鳥の活動に着目することであり、生産性がそこで鍵となります。

しかし、より具体的にどの生産性に着目し、そこからどのような補完的関係を追求していくのかについては、さらに詳しく分析する必要があります。それがバリュースティックをさらに発展させたバリューマップと呼ばれる図であり分析手法です。これにつきましては、別の機会で説明させていただければと思います。

原田 勉 神戸大学大学院経営学研究科教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

はらだ つとむ / Tsutomu Harada

1967年京都府生まれ。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。主な著書に、『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)、『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。

 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT