スープストック「離乳食炎上」への対応が秀逸な訳 変化を迫られる企業の切実な事情も見えてきた

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最後に発表のタイミングについても触れておきたい。声明が出されたのは、騒動発生から約1週間後だった。何事も早い対応が求められるSNS時代ではあるが、今回はあえて「ひと呼吸」を置いたことが功を奏した。

スープストックトーキョー
駅ナカ店舗のイートインスペース。座席間隔は比較的ゆとりがある印象だ(編集部撮影)

騒動発生後、すぐにこの声明を発表していたら、どうなっただろうか。批判者は自分たちの指摘が否定されたと受け止めたのではないか。そうなれば、いかに上述の「切り捨てない」旨の記載があったとしても、怒りのボルテージは上がったはずだ。

冷静になる「間」を取ったことで、批判の沈静化にも成功している。実際、声明発表後、批判的な声はほとんど発せられていない。

創業当初の顧客像は「ひとりで来店する女性」

さて、このように極めて秀逸な対応だったのが、私のなかで「素朴な疑問」が沸き起こった。それは「他の外食チェーンが同様に離乳食の無用提供を行ったら、このような批判が巻き起こるのだろうか」という疑問だ。大手ハンバーガーチェーンやファミリーレストランが無料提供したら、最初から「賞賛一色」となっていたはずだ。

そこで私はスープストックトーキョーの「特殊性」を洗い出すべく、記事データベース「日経テレコン」でスープストックトーキョーの創業期から現在に至るまでの特集記事を一通り読んでみた。

今から11年前の2012年6月18日付の日本経済新聞にスープストックトーキョーの創業者である遠山正道氏のインタビューが掲載されているのだが、創業当初に想定していた顧客像について述べている。

ある日、女性が1人でスープを飲んでほっとしている姿が頭に浮かんだ。「何か大事な世界観に出合えたような気がした」とスープ専門店の開業を思い付く。

さらにもうひとつ、スープストックトーキョーの創業時を振り返っている、興味深い記事を見つけた。2014年8月11日号の『日経ビジネス』で、遠山氏は創業時に書いた事業計画書について、このように解説している。

「Soup Stockは、スープを売っている。しかし、スープ屋さんではない。スープは、感度やコミュニケーションを共有し、共感する一つのアイテムである」
つまり私は、スープストックトーキョーのビジネスモデルを、「スープを売ること」ではなく、「スープを介して感度やコミュニケーションを共感すること」だと定義しました。
次ページなぜ顧客像を「離乳食を求める子ども連れ」にまで広げたか
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