スープストック「離乳食炎上」への対応が秀逸な訳 変化を迫られる企業の切実な事情も見えてきた

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創業期からの「ロイヤルカスタマー」であった「ひとりで来店する女性」に子どもが産まれ、「ライフステージ」が変わり、店から足が遠のいているという現状。経営基盤強化のためには、かつての「ロイヤルカスタマー」を呼び戻したい。そんな狙いが今回の「無料提供」に垣間見えるのではないか。

「子育てしやすい社会の実現」へ

さて、離乳食の提供自体は、実はスープストックトーキョーにとって初めてのことではない。2020年、そして2022年と一部店舗で有料販売している。

スープストックトーキョー
一部店舗では上記のように離乳食も販売されている。数年かけて、慎重にテストしてきたようだ(編集部撮影)

従来とは異なる顧客層を呼び込むにあたり、「既存顧客の離反が起きて、トータルの売上が減らないか」「子ども連れが増えても、店舗運営に支障はないか」などを慎重にテストしてきた節が伺える。今回、「無料提供」という決断に至ったということは、過去2回のテスト結果は好調だったのだろう。

スープストックトーキョー
また、この日訪れた店舗では、「猫のためのスープ」も販売されており、多様なニーズに応えようという姿勢が見えた(編集部撮影)

余談になるが、今回の騒動で、私は自分が夜のニュース番組を制作していた頃を思い出した。放送中は、視聴者からの電話が次々と入る。電話対応してくれるスタッフがいるので、基本的に製作者は電話に出る必要はない。だがスタッフの手が足りないときは、電話に出ることになる。

夜の時間帯ということもあり、酔っ払いからの電話も珍しくない。なぜか自分の会社の不平をぶちまける視聴者、支離滅裂な「政府の陰謀」を滔々と語り、最後には「自分が見出した、この陰謀を報じろ」と語気を荒らげる視聴者など、電話応対では苦慮することばかりだった。

「謝るようなことはしていないし、かといって、電話口の相手はなぜか怒りに震えている」。そんなときは「貴重なご意見として、参考にさせていただきます。ありがとうございました」などと、謝罪もせず賛意も示さずに何とか耐えていたものだった。スープストックトーキョーのような毅然とした対応は、なかなかできるものではない。

政府が「異次元の少子化対策」を唱えるなど、「子育てしやすい社会の実現」は、この国の喫緊の課題だ。今回のスープストックトーキョーの「離乳食無料提供」は、既存顧客の離反を招きかねない「難しい判断」だったかもしれないが、ぜひ成功してもらいたいと願っている。

下矢 一良 PR戦略コンサルタント

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しもや いちろう / Ichirou Shimoya

早稲田大学理工学部卒業。テレビ東京に入社し、『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』を経済部キャップとして制作。スティーブ・ジョブズ氏、ビル・ゲイツ氏、孫正義氏、三木谷浩史氏、髙田明氏、藤田晋氏、前澤友作氏らにインタビュー。その後、ソフトバンクに転職し、孫正義社長直轄の動画配信事業(Yahoo!動画、現・GYAO)を担当。「ソフトバンク・アワード」を受賞。現在はPR戦略コンサルタントとして中小企業のブランディングや宣伝のサポート等を行う。

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