年間20万人受験の「宅建」、受かったら何をやる? 重要事項の説明もITでできるようになったが…

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1つは配点が多い科目を優先すること。前述した4科目のうち、宅建業法が筆頭となり、50点中20点を占める。宅建業法は土地・建物の取引ルールを定めたもの。基礎的な問題をメインとするため、「20点満点中18点前後は取れるように。クリアしなければ合格は遠のく」(並木氏)。次に権利関係(14点満点)、法令上の制限(8点満点)、税・その他(8点満点、うち5点は免除対象)の順で進めていく。

もう1つは各科目の中で例年出題される項目に重点を置くこと。宅建業法は広く勉強し点数を稼がなければならないが、次に配点の多い権利関係は14点満点中7点取れればOK。「権利関係は民法の知識をベースとする借地借家法が出題されやすい。相続や物権変動も出題頻度は高い」(並木氏)。法令上の制限は暗記科目で、都市計画法、国土利用計画法、農地法を押さえる。税・その他は覚えやすい地方税と地価公示法に絞るといい。

試験は毎年10月に実施される。必要な勉強時間の目安は300時間。1日2時間と仮定したら、約5カ月の期間が必要。しかし並木氏は、効率よく勉強すれば、3カ月での合格は十分可能とみる。実際、2022年に宅建士資格を取得した新聞記者の清原勇記氏は、本格的に勉強を開始した同年7月から3カ月で合格を果たした。

本番の試験にもコツがある。試験は全50問を2時間で解かなければならない。1〜14問までは難関な権利関係の問題が並ぶが、素直に1問目から順に始めるとつまずき、頭を悩まして時間ばかり過ぎす。そこで「しっかり勉強した宅建業法からまず手をつける。次は暗記分野である法令上の制限にかかり、最後に権利関係で締めくくる」と並木氏はアドバイスする。

就職は不動産会社以外に金融、ゼネコンも

宅地建物取引士の総登録者数は約113万人。資格を取得すると、重要事項説明など、宅建士にしかできない独占業務を持てる。資格手当は月1万〜3万円が相場。昨今の賃金アップの流れを受け、大手不動産などでは月約5万円と上昇しており、昇進の条件とする会社も少なくない。

活躍の場は不動産業界だけに限らない。金融やゼネコン、商社、旅行代理店、飲食、小売業など、ビジネスに不動産が関わる業界は多数ある。不動産取引に宅建士は欠かせず転職にも有利だ。

独立開業、あるいは定年後、第二の人生の職業としてもいいかもしれない。キャリアアップのほか、キャリアチェンジやセカンドキャリアと、宅建士はさまざまな道を拓く万能資格といえるだろう。

●宅建の薄いテキストで理解、過去問で理解した気は危険
ナルミナス・キャリア 代表 並木秀陸 
まず宅地建物取引士(宅建士)の薄いテキストを入手してほしい。必要な情報がコンパクトにまとめられており、勉強の第一歩に適している。これを数日で読み、試験の全体像をざっくり知ったうえで、過去問に臨むこと。
過去問では「奇数か偶数、どちらかの問い」をずっと解く。通常、問1を解いたら解説を読み、問2と進むが、これだと解説で得た知識で問いに正解することになり、力がつかない。過去問の構成は関連分野の問題が続くからだ。奇数、偶数のどちらかなら、わかったつもりに陥る影響は少なく、学習時間も半分に減らせる。
教材を何冊も持ち歩く人がいるが、役に立つとは言いがたい。覚えたいページをスマホでスクリーンショットして取り込めば、いつでもどこでも手軽に勉強できる。
模試は早めに受けることだ。何度か経験すれば会場の雰囲気に慣れ本番でビビらなくて済む。早い判断で実力を知れば、苦手分野がわかり、対策を打てる。賢く備えて最短距離で合格を勝ち取ってほしい。

 

●法律知識を生かして合格 宅建業法や民法を押さえた
新聞社勤務 清原勇記さん
資格の取得を思い立ったのは働き方改革で可処分時間ができたのがきっかけだ。大学で学んだ法律知識のさらなるアップデートを考えて宅建士に目を向けた。2022年7月から本格的に宅建を勉強し、10月に一発合格。ビジネス実務法務2級やFP3級も取った。行政書士のほうは、残念ながら14点足りなかったが、次は合格を目指している。
宅建では週3日、1回90分授業の資格予備校で勉強。移動中などの隙間時間は、宅建情報を発信するYouTuberの動画を視聴し、講義で理解不十分だった分野を補強した。帰宅後には1日2時間机に向かうのを日課とした。配点の多い宅建業法、得意の民法をしっかり押さえ、苦手な法令上の制限の理解を深めたのが、合格につながったと思う。
宅建士の資格は副業で生かしたい。働き方改革で、残業が減った分、給料は下がっている。独占業務が強みの宅建士なら、通常のアルバイトよりは稼げる。独立・開業は今のところ頭にないが、行政書士を取得したらいつか検討するかもしれない。宅建士やFP、行政書士を併せて持てば、ビジネスの幅が広がり、優位に立てるはずだ。
百瀬 康司 ライター
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