村上春樹新作「文芸のプロ」が読んだ驚く深い感想 『街とその不確かな壁』は"期待通りの傑作"か

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『街とその不確かな壁』を「文芸のプロ」高澤秀次氏が読み解きます(写真:AP/アフロ)
初版30万部と、4月13日発売早々大きな話題を呼んでいる村上春樹氏の新作『街とその不確かな壁』。発売にあわせてカウントダウンイベントまで行われた「話題の新作」を「文芸のプロ」はどう読んだか。
中上健次から江藤淳、吉本隆明、阿久悠まで、数々の評伝を綴ってきた文芸評論家の高澤秀次氏が、「ネタバレ」は最小限度にとどめつつ、今回の「読みどころ」を解説する。

作家自身が「失敗作」と認めた旧作

『騎士団長殺し』いらい、6年ぶりとなる村上春樹の長篇新作『街とその不確かな壁』は、タイトルをめぐる版元のネタばれ的な事前告知もあって、多くの読者を身構えさせてくれた。

「あとがき」でも触れられているように、作者は1980年に「街と、その不確かな壁」という作品を書いている(『文學界』9月号)。

春樹ファン周知のように、作家はこれを「失敗作」と認め、これをもとにした書き下ろし長篇『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を5年後の1985年に著す。

そこで一応の決着(けり)がついたことを、読者は疑わなかったはすだ。

ところがそうではなかった。「街と、その不確かな壁」の発表から40年を経過した2020年、作者はこの作品を「もう一度、根っこから書き直せるかもしれないと感じるようになった」(「あとがき」)というのだ。

つまり、「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という、パラレル・ワールドのうち、前者に埋め込まれた旧作「街と、その不確かな壁」に対する作者の「くすぶり」なり「わだかまり」のようなものは、依然、解消されてはいなかったということだ。

これは、前代未聞の事態といってもよいだろう。

発売にあわせてカウントダウンイベントまで行われた(写真:AP/アフロ)
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