村上春樹新作「文芸のプロ」が読んだ驚く深い感想 『街とその不確かな壁』は"期待通りの傑作"か
作家が単行本化に際して手を加えたり、全集収録に当たり細部に改稿を施すことは、珍しいことではない。
大江健三郎も、自選短篇を編む2014年に、20代に書いた初期の短篇に手を入れている。
だが村上春樹の「失敗作」と認めた旧作への執着には、何かそれ以上のものがある。
改めて今回、その「第一部」(初出作品の書き直し部分)を完成させた時点で、「目指していた仕事は完了したと思っていた」(「あとがき」)と、いったん作業を中断させた作者は、半年後に「やはりこれだけでは足りない。この物語は更に続くべきだ」と感じ、再度「第二部」と「第三部」にとりかかっている。
これはいったい、どうしたことだろうか。
その「謎」について考えてみたい。
初出作品から消された部分は?
「街と、その不確かな壁」から『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』へ、そして『街とその不確かな壁』へのテクストの変成の跡は、数えあげれば切りがない(「一角獣」が「単角獣」に、「門番」が「門衛」に等々)。
ここではまず、決定的と思われる「初出作品から消された部分」について検討してみよう。
それは、プロローグおよびエピローグにあった、いかにも60年代を引きずったような、「言葉」をめぐるマニフェストである。
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