「浅井長政」信長の妄信を得た将が裏切る深層心理 信長を敗走させるも討ち取れず報復の対象に

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長政の最大のミスは、信長を討ち損ねたことです。さらに朝倉勢が想像よりはるかに役に立たなかったことで、織田・徳川両軍にさしたるダメージも与えることもできませんでした。桶狭間の合戦で今川義元を逃さず討てた信長と、金ヶ崎の戦いで信長を逃した長政。両者の運命は真逆のものとなりました。もしも長政が信長を討つことに成功していたら、長政が天下を統一していたかもしれません。

信長は同じ失敗を繰り返す

金ヶ崎の戦いで、まさに九死に一生を得た信長は長政に復讐戦を開始します。そして3年後の1573年に、長政は小谷城で自害。長政と同盟を結んでいた朝倉家も滅亡してしまいます。

この戦いで手痛い経験をした信長は教訓を得たにもかかわらず、やがて同じ失敗を繰り返します。一般的に信長は、独裁的で猜疑心が強く残忍なイメージがありますが、実際は能力が高い者を信じて抜擢する傾向があります。しかも、その人間に裏切られても根気よく説得する一面も。たとえば松永久秀などは、裏切られても許してその立場を保証しています。柴田勝家などは、信長の弟の信行をかついで謀反を起こし合戦に及びますが、勝家も許し、のちに重臣として登用します。長政にも、小谷攻めにおいて秀吉や不破光治を使者として送り、何度も降伏を勧告しました。

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そこまでして態度を変えなかった者には、そのぶんの怒りが加わり残虐な行為に走ることになるわけですが、決して猜疑心の塊というわけではないのです。ただ、家康や秀吉に比べ圧倒的に裏切られることが多かった信長は、やはりパーソナリティになんらかの問題を抱えていたのかもしれません。

金ヶ崎の戦いから12年後、信長は本能寺において重臣・明智光秀の謀反により、ついに倒れます。このときも信長は光秀の叛意に気づかず、無防備でした。

長きにわたり信長に仕え、金ヶ崎の戦いでは殿を務め信長の脱出をサポートした光秀は、長政のように信長を逃がすことはありませんでした。金ヶ崎では決死の脱出を成功させた信長も、手の内を知り尽くした光秀の前に無念の最期を遂げるのです。

眞邊 明人 脚本家、演出家

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まなべ あきひと / Akihito Manabe

1968年生まれ。同志社大学文学部卒。大日本印刷、吉本興業を経て独立。独自のコミュニケーションスキルを開発・体系化し、政治家のスピーチ指導や、一部上場企業を中心に年間100本近くのビジネス研修、組織改革プロジェクトに携わる。研修でのビジネスケーススタディを歴史の事象に喩えた話が人気を博す。尊敬する作家は柴田錬三郎。2019年7月には日テレHRアカデミアの理事に就任。また、演出家としてテレビ番組のプロデュースの他、最近では演劇、ロック、ダンス、プロレスを融合した「魔界」の脚本、総合演出をつとめる。

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