コロナ対策の最大の目標が、国民の命を守ることだとすれば、わが国のコロナ対応は大失敗だった。政府・専門家が「三密回避」を強調したため、高齢者は自粛し、健康を損ねた。
アメリカ・ワシントン大学が昨年3月にイギリス『ランセット』誌に発表した研究によれば、わが国では、コロナ感染による死者の約5倍が、それ以外の理由で亡くなっている。この割合は先進国で最高だ。
厚労省の死亡統計によれば、コロナ禍の最中、わが国で最も増えた死因は老衰だ。2022年の人口10万人あたりの死亡数は、2019年と比べて37人増加している。これはコロナ感染による死者の24人をはるかに上回る。これ以外には心疾患(21人)、誤嚥性肺炎(10人)など高齢者に多い疾患による死亡も増えている。この事実は、前述のワシントン大学の研究結果とも一致する。
わが国で、このような現象が起こったのは、高齢化が進んでいるからだろう。高齢者の健康はもろい。感染予防のために自粛を強いることが諸刃の剣であることを認識しなければならない。
では、高齢者の健康を守るために何をすべきか。ワクチンを打つことだ。ワクチンを打って、普段どおりの生活を続けることが、高齢者の健康維持には有用だ。まさにこれが世界の標準的な対応だ。
アメリカではワクチンとマスクだけ
アメリカ疾病対策センター(CDC)が高齢者に対し推奨するのは、ワクチンとマスクだけで、日常生活には言及していない。
変異株に対する追加接種の有用性は、多くの研究で示されている。例えば、3月10日、韓国の疾病対策センター(CDC)は、BA.1、BA.2変異株への感染歴がある人にワクチンを追加接種することで、新たな変異株BA.5の感染を約9割減らしたと、『アメリカ医師会誌ネットワーク・オープン』に報告している。
また、長崎大学を中心とした研究チームが、ワクチンの専門誌『Expert Review of Vaccines』に発表した研究によれば、BA.1、BA.2変異株の流行期に、ワクチンの追加接種を受けた65歳以上の高齢者は、そうでない高齢者と比較して、66%感染のリスクが低下したという。万が一、感染した場合も、ワクチン接種者は重症化しにくいことは周知の事実だ。
世界はワクチンを重視する。もちろん、厚労省も、このあたりはわかっているだろう。高齢者や持病のある人を対象に夏前の追加接種を準備している。
ではなぜ、厚労省はワクチンを積極的に推奨しないのだろう。1つの理由はアンチ・ワクチン世論の盛り上がりだ。
口火を切ったのは総合週刊誌だ。昨年末にコロナワクチンの不都合なデータを検証する記事を掲載した。他誌も追随し、別の総合週刊誌は1月に発売した号で「昨年12月までに厚労省に報告された、ワクチンの接種後に死亡した事例は1917件に上る」と報じている。
ワクチン不信が根強い日本で、ワクチン批判の記事は売れるのだろう。国民のワクチンへのイメージは急速に悪化している。
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