AIに仕事を奪われる人・奪われない人の決定的差 知識労働者の大量失業を防ぐためにはどうするか

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しかし、残念ながら、こうした危機感を持った団体や企業は、まだ少数であり、いまだに、この大量失業への危機意識は、社会全体に広がっていない。

また、政府も、企業も、個人も、まだ、このAI革命がもたらす大量失業について、切迫した危機感を持たず、根拠のない楽観論に流されている。

人間が持つ「直観」と「智恵」

では、AI革命が急速に進むこれからの時代に、AIに仕事を奪われないために、われわれは、どのような能力を身につけていくべきか。また、政府や企業は、どのような能力を身につけた人材を育成していくべきか。

この問いに対する答えは、明確である。

それは、AIが圧倒的に優れている 「論理的思考」と「知識の活用」の能力ではなく、AIに比べて人間が優れている「直観的判断」(Intuitive Decision)と「智恵の活用」(Wisdom Management)の能力を、身につけ、磨いていくことである。

ここで、「知識」(Knowledge)とは「言葉で表せるもの」であり、書物や文献から学ぶことのできるものであるが、 「智恵」(Wisdom)とは 「言葉で表せないもの」であり、経験や体験からしか掴めないものである。

すなわち、この「智恵」とは、科学哲学者のマイケル・ポランニーが、著書『暗黙知の次元』で定義した 「暗黙知」(Tacit Knowing)のことでもあり、AIに比べ、人間が圧倒的な強みを持っている。

これに加えて、「直観的判断」の能力もまた、経験や体験を積むことによって身体的に掴むものであるため、本来、人間の方が優れた能力を持っている。

しかし、実は、AIは、この能力の初歩的なものについては、すでに、その一部を代替し始めている。

例えば、これまで、永年の経験を積み、道路事情に詳しい熟練のタクシー運転手は、「この時間帯は、この道路を走ると、客を掴まえやすい」という直観を発揮していたが、日本のタクシー会社では、過去の道路情報や乗客情報のビッグデータを活用して、AIが判断し、新人のタクシー運転手に、どこを走るべきかの指示を出し、実際に売り上げを増やしている。

また、アメリカの警察では、AIが、「この曜日には、どの地域で、どの時間帯に犯罪が発生しやすいか」をビッグデータを用いて判断し、警察官にパトロールの指示を出すことによって、犯罪の検挙率や抑止率を高めている。これも、かつては、熟練の警察官が直観的に判断していたものである。

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