「友だちができても長続きしない傾向がありました。コーチングを受講したときにその原因がわかったんです。僕は子どもの頃に転校が多くて寂しい思いをしていたのに、それを言葉にしてこなかった。だから、『この人とはどれぐらい長く付き合えるんだろう』と関係の終わりを思う癖がついてしまったのです。今は、『どうやったら長く付き合えるんだろう』に変えるようにしています」
コーチングの成果だけでなく、3回の離婚への反省が身に染みているのかもしれない。最後の離婚から10年間は一人暮らしをしていたが、住んでいた賃貸マンションの建て替えをきっかけにして明子さんのマンションに引っ越すことにした。面倒見がいい明子さんに素直に甘えているのだ。ただし、同居を誘ったのは明子さんのほうだったという。
「母の介護でしばらく働けないので収入がなくなります。ローンも残っているので彼から家賃をもらえるのはありがたいです。Win-Winだと思いました」
平穏な空間を乱す、淳平さんの膨大な荷物
予想外だったのは淳平さんが趣味人でもあったことだ。愛用の楽器や愛読書がたくさんあり、それを明子さんの家に持ち込んだので、長い間をかけて築き上げた小さく平穏な空間が乱されてしまった。
「でも、僕は洋服が少ないほうですよ。会社勤めなのにスーツは4着しかありませんし。生活習慣にしても、まだ彼女の中で僕のルールが馴染んでいないだけだと思っています。例えば、アイロンをかけなくていい洗濯物は干して吊るしておけば、いつでもパッととって着られます。畳んで収納する必要はありません。ここは彼女の家なので、できるだけ合わせようと努力はしていますけど」
口数が全く減らない淳平さん。明子さんもあきらめ顔で「あれこれ言い過ぎる私が悪い、ということだよね」と笑ってやり過ごしている。惚れた弱み、なのかもしれない。音楽好きな淳平さんも明子さんの「声のトーンと楽しげな感情表現に魅力を感じる」と告白。事実婚ではなく、法律婚を望んでいる。
「どちらかが大病したときなどに(法律婚でないと)不都合があるからです。あと、僕はこれから財産ができると思うので、それを彼女に遺してあげたいですねー」
どこまでも軽い調子の淳平さん。今のところは彼を面白がりながら受け入れている明子さん。その共同生活が落ち着くまでにはもう少し時間がかかりそうだ。彼らがお互いを「心の支え」だとしみじみと感じる日が来ることを願わずにはいられない。
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