2013年に奥沢の小さなロースタリー&カフェ「オニバスコーヒー」を取材したとき、当時20代だったオーナーの坂尾篤史さんは、“有言実行”を生き方の基本にしていると語っていた。「これまで口にしたことは、だいたい叶ってきました」。叶うという言葉には受動的な印象があるが、多くの人々の友情と協力があってこそ、という意識がその表現を選ばせたのだと思う。
その当時の目標は、もう1軒、新しい店舗を出店することだった。まだ具体的に動き始めてはいなかったが、坂尾さんはスペシャルティコーヒーを広める必要性を痛感していた。落ち着いた住宅街である奥沢には、コーヒーへの関心が高い人々が一定数いるものの、経営はまだまだ厳しかった。
「もっと多くの人にスペシャルティコーヒーのおいしさを知ってもらわなければ。新しいコーヒー文化は、同じ方向を目指すコーヒー店が50軒、100軒と出てこなければ生み出せないと思う」
3つのロースターの豆を並べる試み
2014年5月、坂尾さんは渋谷・道玄坂に「アバウトライフ コーヒーブリュワーズ」をオープンした。有言実行である。
テイクアウト主体のこのコーヒースタンドは、画期的な試みを行っている。通常、ロースターが経営するコーヒーショップは自店で焙煎した豆だけを扱うが、ここにはオニバスコーヒーも含めた合計3つの小規模ロースターの豆が並んでいるのだ。お客は好きなロースターの豆を選んでコーヒーを注文することができる。
「アマメリアエスプレッソ」と「スイッチコーヒートーキョー」。坂尾さんがフレンドシップロースターと呼んで豆を取り扱うこの2店は、いずれも東京の住宅街に地域密着型の焙煎所を構え、若手オーナーが熱意をもって焙煎に取り組んでいる。それぞれの街でスペシャルティコーヒーの魅力を発信する仲間たちだ。
一貫して大切にしてきたのは、コーヒーのクオリティと、人と人のつながりだ。「スペシャルティコーヒーはまだ歴史が浅く、過渡期にある。同業者たちはみな手探りで進んでいるので、お互いに情報をシェアして協力していきたい」。
人生に行き詰まりを感じたときは、外に出て人と会う。その積極的な行動がいつも坂尾さんに転機をもたらしてきた。出会った人と友達になるコツは「自分をさらけ出すこと」。「外に出る」の中には、日本の外へと出ていく放浪の旅もある。
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