2013年秋、林大樹さんが自宅にほど近い静かな交差点に開いたわずか6坪の焙煎所兼コーヒースタンド「ARiSE COFFEE ROASTERS(アライズ コーヒー ロースターズ)」は、開店直後から、コーヒー好きの老若男女が集まる人気店となった。
小さな店内の4分の1ほどは焙煎機に占拠され、背後の壁にはスケートボードが並んでいる。決して小ぎれいな店構えではないし、飲みものはコーヒーしかない。だが、「売っているのはコーヒーだけじゃない」と、林さんは自負と笑いを含んだ声で言う。彼はものごとを面白がる姿勢で生きており、その彼がローストするコーヒーと、会話と、笑いに惹かれて、人々が集まってくるのだ。
清澄白河エリアのあくせくしない空気が好きで、林さんは14年前からこの地で暮らしてきた。「新旧のバランスがいいのがこの町の魅力。昔から住んでいる年配の方々だけの町じゃない。アートに関心のある若い人たちやクリエイターの移住も増えて、多様な人々がいる。また、チェーン店が少ないのも清澄白河の個性を生んでいると思う」。
いつでも、誰に対しても同じ態度で気さくに接するのが信条。地元の個人店の店主たちとも日頃から交流を深めているおかげで、遠方からアライズを訪れたお客に「昼食はどこに行けばいいでしょうか」などと訊ねられれば、間髪を入れずに地図をひろげ、人数や雰囲気にふさわしいお店を教えることができる。そう、さながら町のコンシェルジュ、案内役だ。
コーヒーもこの町も、好きになってほしい
良質のコーヒーを提供するのはコーヒー店として当然の責務。それを果たした上で意識するのは、「初めて清澄白河に来た人に、どうやって町を好きになってもらうか。最初に入ったお店次第で町の印象が左右されたりするから」
アライズが町の案内役のようなコーヒー店になったのは、この町と、少年時代から乗っているスケートボードが培った路上で遊ぶ精神と、沖縄本島のコーヒー屋さんたちの影響が渾然一体となった結果らしい。
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