ブルーボトルコーヒーは近隣のコーヒー店と友好関係を結んでおり、創業者のジェームズ・フリーマン氏は2014年にアライズにコーヒーを飲みに訪れていた。紳士的な、いい人だと林さんは言う。
日本の伝統的な喫茶文化へのリスペクトを表明してきたブルーボトルコーヒー。フリーマン氏が自分たちのルーツとして茶亭羽當、ランブル、大坊珈琲店といった東京の歴史ある珈琲店を挙げたことで、日本の若い世代がそれらに注目するという逆転が起きている。3軒とも林さんの山下コーヒー勤務時代に取引先だったお店だ。縁とは不思議なものである。
コーヒー屋=パン屋説
「コーヒー屋はパン屋のように使ってもらうのが理想」と林さんは言う。地元にいつも通うお気に入りの一軒を持ちつつ、他の町に出かけたら、そこで評判のパンを買って楽しむのがいい。そう考えているから同業者を競合店とは捉えない。「うちにはたくさんの同業者が飲みに来るんだけど、みなオープンに身元を明かして友だちになるし、開業したいという人の相談もよく受ける」。旧世代は激しい競争をしがちだが、それとは異なる人間関係がここにはあるのだ。
2軒のアライズには常時5、6種類以上の銘柄が並んでいるので、好みが決まっているなら遠慮なくそれを告げてから、おすすめを聞くといい。
「品質がいいことは絶対条件として、コーヒーの味にはこれだけの幅があることを僕自身面白く感じているので、その楽しみを共有したい。コーヒーが苦手な人の入り口にもなれるように、ラインナップには気を遣います。なるべく多様な産地、多様な味に出会えるように」
好みが特に決まっていなければ、アライズが大切にしている定番のドミニカのプリンセサを最初の一杯に。「優等生的ではあるが、バランスのとれたすっきりタイプ。好みが不明な人へのプレゼントにも喜ばれます」。
豆の個性を引き出しながら、毎日飲んでも飽きることのない味わい。それが林さんの焙煎するコーヒーの魅力だ。この日試飲させてもらったエチオピア・グジは、フルーティーな香りとコクが巧みに調和していた。
エンタングルにバリスタとして立つ松本さんは「以前、他のカフェでグジを飲んだときは派手すぎる味で苦手だと思った」と振り返る。「浅煎りでフレーバーは立つんだけど、渋みが後に残る。その体験を林さんに話したら『じゃあ、そのグジ嫌いを解決しようかね』って(笑)。アライズで焙煎されたグジは好きです。華やかでも決して派手すぎない、ちょうどいい味なんです」
「林さんには人を惹きつける力がある。焙煎士としても人間としても尊敬しています。そばで見ていると、人間が好きなんだなというのがよくわかる。自分のことも一個人としてちゃんと見ていて、いい部分を拾い上げて認めてくれるのがとても嬉しい」
そう語る松本さんの接客も自然で好感度が高く、エンタングルに欠かせない存在となっている。
エンタングルでの取材終了後、焙煎所に戻る林さんは笑顔で大量の備品をかつぎ、スケートボードに乗ってあっという間に疾走していった。これがいつもの日常なのだという。そして今日も、人と町を結ぶアライズでは、コーヒーの香りとともに何かが絶え間なくARISEしているのだ。
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