2店舗目の立地として、渋谷駅から徒歩10分ほどのにぎやかな一角を選んだ理由は、人通りの多さに加え、周辺にオフィス街があり常連客が見込めること。実際に幅広い年齢層、国籍の人々が気軽に立ち寄り、バリスタがすぐ目の前でコーヒーを淹れるのを見ながらテイクアウトしていく。近隣の住民の中には、坂尾さんやスタッフが自分の息子と同年代だからと、コーヒーついでの立ち話を日課のように楽しんでいく年配の女性もいる。
隣はコンビニエンスストアである。「見ていると、毎日必ずそこでコーヒーを買っていく人がいるんです」と、坂尾さんは笑った。その人はお昼になると、再びコンビニにお弁当を買いに来る。
コーヒーや食べものの「他の選択肢」に関心がない人を、無理に振り向かせることは不可能なのだろう。
その代わり、訪れてくれた人にはより親近感を抱いてもらうために、FacebookやInstagramを通してまめに情報発信を行う。
坂尾さんが日本スペシャルティコーヒー協会が主催する「ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ2014」で3位に入賞したことをFacebookで報告すると、常連客の多いIT企業の社員たちが、その記事をシェアして、わざわざ店頭で報告しなくてもみな知っていたそうだ。
人のつながりは続いていく
アバウトライフはよくゲストバリスタを迎える。親交のある他店のバリスタたちがコーヒーやエスプレッソの抽出を行い、お客と気さくに言葉を交わす。国内のみならず、海外からも有名バリスタが訪れてカウンターに立っている。信頼関係を大切にしてきた坂尾さんのお店ならではの光景だ。逆に坂尾さんが彼らのお店を訪れる機会も多い。
取材中、アメリカ人の青年がアバウトライフにコーヒーを買いに来て、「ハッピーバースデイ!」と声を掛けてきた。偶然にも、この日は坂尾さんの誕生日。Facebookを見れば今日が誕生日だとわかる。青年は仕事で来日するたびに近くのホテルに滞在して、毎日コーヒーを買いに来るのだという。
彼は「日本語ではどう言うのか?」と質問し、スタッフに教えてもらって、もう一度坂尾さんに笑顔を向けた。
「タンジョービ、オメデトー」
一杯のおいしいコーヒーには、はたしてどれだけの力があるのか。少なくともそれを飲んだ人に少しの間、豊かな気分をもたらすことと、もし求めるなら、差し出した人と受け取った人の間に会話が生まれ、理想の暮らし方をゆるく共有するきっかけになりうることは間違いない。
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