居心地は悪くないのに仕事で「もやもや」の正体 晴れない気持ちをスッキリさせるのは「越境」だ

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さて、越境とは、一体何でしょう? 辞書には、境界線を越えること。法的に定められた領界を無視して侵入すること、とあります(出典:デジタル大辞泉)。越境は境界(線)を越えることだと分かります。

では、境界とは何でしょうか? 境界は、元々は仏教の言葉だったようで、能力の及ぶ範囲・限界を意味していたようです。転じて境遇や境地を示すようになり、近年は主に土地や物事の境目を意味することが多いようです。国境は代表的な境界であり、自然科学と社会科学の境界、といった使い方もします。

つまり、境界には2種類あるのです。物理的境界と心理的境界です。身近な例で考えてみます。

人はなぜ境界をつくるのか

物理的境界の代表は家でしょう。われわれは自宅という物理的境界を越境して出勤してきました。コロナ禍で出社という越境を毎日している人は減っていますが、今も多くの人が家というプライベートな空間と、会社・職場というパブリックな空間とを行き来しています。

会社も物理的境界を持っています。セキュリティの関係で入口にゲートを設けている企業は多いですが、それは社内と社外を分ける物理的境界ということができます。会社の中にも境界は沢山あります。組織がフロアによって分けられたり、机が課ごとにまとめられ区切りがされていたら、実際に境界線が引いてあるわけではありませんが、物理的境界といえます。

では、心理的境界はどのようなものでしょうか? 部署や部門といった何かしらの会社・組織内での所属自体が心理的境界を形づくっています。組織図は心理的境界を暗に示しているともいえます。われわれは、「うちの部では……」のような言い方をごく普通にしています。

うちの、ということで他の部との心理的境界線を引いているのです。会社以外でも境界は数多あります。野球やサッカーなどのスポーツチーム、〇〇ファンやオタクの集い、SNS上での特定スレッドの会員、自治会、宗教や宗教内の派、政治上での党派や派閥、大学や高校などの卒業生ネットワーク、等々。全てのコミュニティは何かしらの心理的境界を有しています。

では、人はなぜ境界をつくるのでしょうか?

まずは、自分の居場所のためです。元々ある居場所に参加することもあれば、居場所をつくることもあります。同じ目的や利害を持つものと集うことで、所属感が高まります。同好の士であれば、胸襟を開くスピードが高まり、落ち着きます。ほっとする感じです。

境界をつくることは、社会を分けることでもあります。分けることで、コミュニティ内の人数が減ります。コミュニケーション・コストが下げられるのです。全世界約80億人の集団の中では、何かひとつのことだけを議論するにしても途方もない労苦が必要でしょう。境界をつくり、共通の興味・関心を巡り集団を小さく分けることで、意思疎通がしやすくなり、意思決定も容易になります。それは、コミュニティ内での一体感の醸成につながります。

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