人間は機械ではない。人間の心を揺さぶるのは、もっとスケールの大きなもの、つまりストーリー、とりわけ人間をめぐるストーリーだ。
方針が決まっても再検討の余地を認める
今、起きていることを説明したり、未来へのストーリーを紡ぎ出そうとしたりしたリーダーの実例は、メディアでも数多く紹介されている。たとえば、あるCEOがこう述べるとする。
(コロナ禍をへて、リモートワークが当たり前になった職場で)
「全員に週5日オフィス勤務をしてほしい」
このようなメッセージを聞かされたとき、社員はどのような反応を示すか。そのメッセージを受け入れる人もいるだろうが、抵抗を感じる人もいるだろう。
では、これとは異なるメッセージを打ち出すとすれば、どのようなものになるか。不確実性が高まっている時代に、この問いに明確に答えることは難しいが、いくつかのヒントはある。
リーダーは、二者択一ではなく、もっと選択肢を広げ、大きな変化の時代に既存の常識を問い直す余地があることを認めてはどうだろう。働く場所と時間に関して、これまでの当たり前を再検討するのだ。想像力を発揮して、大胆に、独創的なアイデアを探せばいい。
それが決定事項だという印象を持たせないためには、さまざまな実験や試行を通じて新しいモデルをつくり、その有効性を検証するのに適しているという認識を示せばいいだろう。また、このような時期に、会社のパーパスや価値観を再確認し、それを行動の指針にする必要性を指摘することも重要だ。
リーダーは、自分だけが発言権を持っているのではなく、「あくまでも自分も対話に加わるひとりにすぎない」という立場を取るべきだ。「自分がすべての答えを知っているわけではない」と認めて、メンバーの意見を求めればいい。
社員は、「働く時間と場所の柔軟性と自立性を高めたい」という会社の方針が本気なのか、それとも口先だけなのかを見極めるために、リーダーの日常の行動を、つまり「決定的な局面」を注視する。
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