三菱の国産ジェット機が撤退に追い込まれた必然 政府も含めたビジネス感覚、当事者意識の欠如

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日本政府はこれら常識外に高い国産機を海外に売るといってきたが、全く現実性がなかった。特にC-2の民間転用は論外だ。C-2は型式証明をとっていないので、新たにとるとなれば数百億円はかかるだろう。一体何機売ればそのコストが回収できるだろうか。

このような極めて高い調達および維持コストをかけて川重の航空機を買い続けても日本の航空産業に全く寄与しない。川重が例えば旅客機を開発して世界市場に打って出るつもりはないからだ。実際、海外の見本市に出展していた同社を何度も取材した限りでは、そうした動きや意思を全く感じられなかった。

P-1のエンジンを担当したIHIも同様だ。リスクを負って、世界の市場に打って出る気配はなさそうだし、規模の面からもそれは難しいだろう。性能も品質もコストも向上しないし、航空産業として市場から金を稼いで、下請け含めて従業員を雇用し、納税を通じて利益を国家に還元することも難しい。P-1やC-2の調達を続けても、何倍も高い航空機を買い続けて国費を浪費しているだけと言ってもいい。

防衛省がコミットすることもなかった

MRJに関して防衛省は全くコミットしてこなかった。仮に途中からでも例えば政府専用機、海自のP-3Cを流用した電子戦機などの後継、空自がC-2の機体を流用した電子戦機RC-2などの機体にMRJを採用するなどして、防衛費でMRJを支えるつもりがあればMRJの延命は可能だっただろう。これらだけでも10機以上の需要はあったはずだ。

自衛隊機であれば型式証明を取る必要はない。型式証明が取れるまでの期間、自衛隊機として生産を続ければ三菱航空機はキャッシュが入り、工場も遊ばせずに済む。自衛隊が採用したという事実もセールスに利用できる。

空自では早期警戒機、E-2Cの後継としてE-2Dを採用したが、元来空母の艦載機でありその制約から居住性が悪く、長時間の任務に適さない。E-2DのシステムをMRJに移植すれば、長時間の哨戒飛行が可能となる。またそれが輸出できる可能性もあっただろう。機体だけならば武器輸出の規制にはかからない。実際にわが国が生産に参加しているボーイング767は多くの軍用型が生産されている。

だがMRJの開発が暗礁に乗り上げても挙国一致体制は取れずに、自衛隊がMRJを採用することもなかった。

このような政府と業界の体制は今後も当事者意識と能力の欠如のために変わらないだろうと筆者は見る。将来的に航空産業が安定して成長するということは考えにくい。厳しい言い方になるが、わが国には航空産業で食っていく能力を見いだせないということだ。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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