三菱の国産ジェット機が撤退に追い込まれた必然 政府も含めたビジネス感覚、当事者意識の欠如

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三菱重工だけではなく、国や経産省、防衛省といった関連省庁の責任も重い。わが国では機体メーカーとして三菱重工、川崎重工、スバル、新明和工業の4社があり、エンジンメーカーとしてはIHI、三菱重工、川崎重工の3社が存在するが、いずれも世界的にみれば弱小メーカーであり、自ら世界の軍民市場で戦った経験はほとんどなく、防衛省向けの売り上げに依存して国内の競争ですらロクにしてこなかった。

わが国は武器輸出を是としてこなかったので、航空産業の育成という意味では世界の民間市場を相手にする民間機の開発を優先するのが望ましかった。1970年代には747の巨額の開発費とセールスの苦戦で日本に737の生産権を売り込んできたが、YS-11で苦い経験をした通産省(現経産省)も業界を断った。

航空産業の育成には何十年単位で時間がかかり、その間政府の強い関与と支援が必要だ。いまやボーイングと並んで旅客機業界の雄となったエアバスにしても黒字化まで30年かかっている。そのような挙国一致体制で何が何でも航空機産業を軌道に乗せるという強い意志が政府や経産省にあったのだろうか。

川重「P-1」はコストが高いのに能力は高くない

現在、唯一大型機を生産している川重のP-1は1機300億円以上でアメリカ海軍のP-8ポセイドン哨戒機のアメリカ海軍向け最終ロットが約200億円なので1.5倍も高い。

しかもその能力は高くない。2021年、グアムで行われたアメリカ海軍主催の固定翼哨戒機の多国間共同演習「シードラゴン2021」で、成績はP-8がトップ、次いでP-3Cだった。P-1は旧式の他国のP-3Cにも及ばず、アメリカ海軍のP-8が示した敵役のアメリカ原子力潜水艦の場所すら探知できなかった。この話は武居智久元海幕長が自民党の国防部会で明らかにしている。

P-1の搭載している光学電子センサーシステム、HAQ-2は富士通製だが価格は欧米メーカーの同等品の2倍も高いのに、探知距離などの能力は及ばず、故障も多い。これがP-1の稼働率低下の原因になっている。

機体、システム、エンジンすべて専用ということもあり、旅客機などを流用した他国の哨戒機に比べ維持整備費用は少なくとも数倍、下手をすれば1桁違うだろう。

同じく川重製のC-2輸送機も調達単価もコストも高い。調達単価も来年度の防衛省概算要求では1機300億円以上で、ペイロードが3倍近いC-17の1.5倍である。ペイロード1トン当たりのLCC(ライフ・サイクル・コスト)は、C-2が24.4億円、C-130Jは4.7億円、C-17が4.5億円であり、C-2の1機当たりのLCCは、C-130Jの5.2倍、C-17の5.4倍である。

C-2のペイロード1トン当たりのCPFH(Cost Per Flight Hour:飛行時間当たりの経費)はC-2が10.5万円(26トン)、C-130Jは3万円(20トン)、C-17(77トン)は1.96万円である。C-2のペイロード1トン当たりのCPFHはC-130Jの約3.5倍、C-17の5.4倍。C-2の調達および維持費は輸送機としては極端に高いことがわかるだろう。

次ページ川重の航空機を国が買い続けたとしても
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