ずばり黒田総裁にとって最大のリスクは、アメリカの利上げや長期金利の上昇などではなく、ましてや「2月の全国消費者物価上昇率2%は、増税効果を抜いたら実質前年比0%だった」、といったことでもない。安倍首相との距離なのではないか。もともと官邸とは蜜月状態と思われていた黒田総裁だが、このところ安倍首相との関係にすきま風が吹いているように見えるのだ。
安倍首相と黒田総裁の「不一致」は、いよいよ深刻に?
さる2月12日、財政健全化をテーマに行われた経済財政諮問会議の席上、黒田総裁は日本国債のリスクについて5分程度発言したものの、そのほとんどが議事録から削除されていたことが報じられている。
実際に議事要旨を見ると、他の出席者の発言は約1ページ分も克明に記録されているのに、黒田総裁の分はわずか7行で終わっていて、まことに不自然だ 。日経新聞の報道によれば、「黒田氏は珍しく自ら発言を求め、財政の信認が揺らげば将来的に金利急騰リスクがあると首相に直言した」そうである。
また1月の内閣府・月例経済報告は、それまでの「日本銀行には、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現することを期待する」という文言を、「経済・物価情勢を踏まえつつ」と変えている。
つまり日銀は、できるだけ早期に2%目標を達成すべく、昨年10月に追加緩和をしたわけであるが、その結果として円安が進んだことは特に地方や中小企業で不評であった。このことは、昨年12月の総選挙で与党が痛感するところとなった。そこで「物価目標の達成はそんなに急がなくていいですよ」と、文言を変えたのであろう。
安倍首相と黒田総裁の不一致は、おそらく昨年10月末の追加緩和から始まっている。黒田総裁としては追加緩和を決めれば株価も上がるし、安倍内閣を支援することもできる。さらに消費増税を予定通り実施することを後押しする材料にもなると考えたのだろう。ところがこの行為は安倍首相には、「ちっ、俺は増税を先送りして解散しようと思っていたのに、余計なことをしやがって…」と映ったのではないだろうか。
もともと黒田総裁は元大蔵官僚で、財政規律を重視する。安倍首相はそれよりも、デフレ脱却が重要であると考えている。インフレターゲット論者とリフレ論者の見解の相違とでも言えるだろうか。結果として日銀は、「円安はマクロ的にプラス」と考え、政府はこれ以上の円安は困ると思っている。
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