「ひきこもり51歳男性」業者の強引な連れ出し被害 寮費10万引かれ、手取りがマイナスになる月も

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ヒロユキさんは質問には終始よどみなく答えてくれた。また引き出し業者の実態を書き起こしたメモの文字はペン習字のお手本のように美しく、問題点の指摘も的確だった。一方でひきこもっている間、多くの映画を観たというので、お勧めの映画はあるかと尋ねると、「それを答えるのはなんだか恥ずかしいです」と申し訳なさそうに言ったきり、黙ってしまった。

この両極端にもみえる振る舞いが、30年近くひきこもり状態となったヒロユキさんの特性であるように、私には思えた。

「戻れるものなら、施設に戻りたい」

取材を終えようとしたとき、ヒロユキさんが意外なことを言った。

「戻れるものなら、(施設に)戻りたい。そう思ってしまうことがあるんです」

はぁ? あれだけの被害に遭いながら? 驚く私に対し、ヒロユキさんはこう続けた。

「あそこではみんな、自分がひきこもりだということを知っていた。だから強制ではあったけど、ちゃんと働くことができた。施設での暮らしはある意味、濃密でした。(退所して)よかったと思う反面、やっぱり社会に自分の居場所はどこにもないんじゃないかと不安になるんです。1日も早く働くモードにならなきゃいけないのに……」

なるほど――。持論になるが、私はひきこもり当事者を対象にした入所施設をすべてなくすべきだとまでは考えていない。一時的とはいえ施設しか頼れないケースが皆無とはいえないと思うからだ。

しかし、一方で私は、引き出し業者の男たちに両手両足をつかまれて自宅から引きずり出されたときの体験を思い出すたびに涙と震えが止まらなくなる女性や、施設に入所させたばかりに息子を亡くし、仏壇の前で詫びない日はないと嘆く母親に取材で出会ってきた。資格も知識もない人間や組織が安易にひきこもり支援をうたい、当事者の同意もないままに人権を侵害するなど許されることではない。

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それにヒロユキさんは「ちゃんと働けた」と言うが、一方的な支配関係の下での習慣は、結局は身に付かないのではないか。無理にゴール、特に就労というゴールを定めると、かえって解決からは遠のくというのが、取材から得た実感でもある。

内閣府が2018年度に実施した調査によると、中高年(40~64歳)のひきこもりは推計で61万3000人。全国の自治体では「ひきこもり地域支援センター」の設置も進んでいるが、いまだに引き出し業者の元に戻りたいと思わせる現実がある。ひきこもり当事者や家族への理解と支援は心もとないままだ。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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