ヒロユキさんは「運転免許証の更新はがきも圧着部分がはがされた状態で渡されました。自分自身はマイナンバーカードもワクチンも必要とまでは思っていなかったけど、断れる雰囲気ではありませんでした」と憤る。
夜10時の点呼時には所在確認のためと、一方的に写真を撮られた。金銭管理に関しても、最初は1人で買い物に行くことを禁じられたうえ、その後も1週間ごとに5000~6000円を手渡され、買い物内容とレシートの報告・提出を義務付けられた。
3年間でかかった費用は総額約500万円
また、入所当初、ヒロユキさんの家族は業者から「サポート費」として毎月10万円を請求されていたという。「給料から寮費として10万円も引かれていたのに。なぜ家族からさらに取り立てる必要があったのか」。結局、3年間でかかった費用は総額約500万円。家族は自宅マンションを売却することでそれらを捻出したという。
労基法違反に、居住の自由や身体の自由、経済活動の自由、プライバシー権、肖像権の侵害――。私は以前、引き出し業者の問題について取材をしたことがある。その際、ヒロユキさんを引き出した業者の代表者からも話を聞いた。代表者の男性は「うちは入所時に本人からも同意書を取っている」と語っていた。しかし、ヒロユキさんの話はそれらの主張を全面的に否定するものだった。
ヒロユキさんによると、施設からは逃げ出す人が後を絶たなかった。ヒロユキさんも入所数カ月で脱走を試みたことがある。しかし、手持ちの現金はゼロ。1週間飲まず食わずで歩き続けたが、結局連れ戻された。このとき、代表者の男性からは「これからどうすんだよ!」「(自立など)できるわけないだろ!」と乱暴な口調で詰め寄られたという。
業者に対しても、家族に対しても「憎しみしかなかった」とヒロユキさんは振り返る。ときに殺意に近い感情を持て余しながら工場で働いていたとき、別の派遣会社に雇用された働き手の1人と親しくなる。この知人に施設の実態を打ち明けたところ、「逃げるべきだ」というアドバイスとともに、東京管理職ユニオンという個人加入できる労働組合を紹介されたのだという。
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