千葉雅也氏が伝授「難解な哲学書」の読み解き方 プロであっても「読書はすべて不完全」が前提

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というわけで、現代思想をどう読むかですが、いくつかポイントがあります。

①概念の二項対立を意識する。

②固有名詞や豆知識的なものは無視して読み、必要なら後で調べる。

③「格調高い」レトリックに振り回されない。

④原典はフランス語、西洋の言語だということで、英語と似たものだとして文法構造を多少意識する。

今回はとりあえずこの四つを挙げたいと思います。

原文の構造を英語だと思って推測する

まず、大前提の問題である④から説明させてください。

大前提として、フランス現代思想の文章は本来フランス語です。僕のような研究者はフランス語を学んでおり、原文が文法的にどうなっているかを日本語の翻訳文から透かし見ることができるため、「この訳し方はどうもな」とか思いながら、オリジナルを予測し、「予測的な訳し直し」をしながら読むことができます。

のっけからハードルを上げてしまうようで恐縮ですが、現代思想に限らず、翻訳ものを読むときには言語の知識があるとひじょうに役立ちます。翻訳された文章が読みにくい場合、それは元の言語の特徴が出ている場合がある。なにやら難解そうなので深読みしたくなるような部分でも、実はたんに「フランス語的な書き癖」にすぎず、深い意味はない、ということが多々あるのです。

フランス語を学ぶのは大変なわけですが、その必要はありません。日本で育った人なら英語教育は受けています。フランス語の構造は英語によく似ています(ドイツ語よりも英語に近い)。英語と日本語の違いは、たとえば英語には必ず主語と動詞があるとか、関係代名詞節があるとか、そういうのはわかりますよね。フランス語でも基本的にそうなっているので、原文の構造を英語だと思って推測してください。

その上で、フランス語の特徴をひとつだけ言っておきます。フランス語は、英語に比べて、運用するために最小限必要な語彙の数がやや少ないと言われています(また、英語とフランス語よりも日本語の方が多い)。そのため、一単語の多義性を駆使する傾向があるようです。どこか抽象性が高いようなフランス語文のカッコよさは、相対的に少ない語彙でいろんなことを言おうとするから生じる効果だと思われます。

かつ、哲学思想の文章は、日常的な文章よりさらに語彙が限定されます。抽象的に見えるのは、深遠な内容だからというより、語彙の限定のせいでそうなっている面もあるというのを知っておくといくらか気楽になるかもしれません。

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