千葉雅也氏が伝授「難解な哲学書」の読み解き方 プロであっても「読書はすべて不完全」が前提

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「新書大賞2023」を受賞した千葉雅也氏(写真:講談社提供)
1年間に刊行された新書から「最高の一冊」を選ぶ「新書大賞2023」(中央公論新社主催)が発表され、大賞に千葉雅也氏の『現代思想入門』が決まった。本稿では同書より一部抜粋のうえ、難解な現代思想の文章の読み方についてご紹介する。

読書はすべて不完全である

本稿では、「いかにも現代思想的な文章」をどのように読むか、そのコツ
をレクチャーしたいと思います。

専門家の立場としては、現代思想の細やかなレトリック(文章の技法)を楽しみ、深く読めるようになってほしいのですが、でもそれより、徹底的にハードルを下げることが最優先だと思います。

細かいところは飛ばす。一冊を最後まで通読しなくてもいい。読書というのは、必ずしも通読ではありません。哲学書を一回通読して理解するのは多くの場合無理なことで、薄く重ね塗りするように、「欠け」がある読みを何度も行って理解を厚くしていきます。プロもそうやって読んできました。

そもそも、一冊の本を完璧に読むなどということはありません。改めて考えてみると「本を読んだ」という経験は、実に不完全なものであると気づきます。たとえ最後まで通読しても、細部に至るまで覚えている人はいません。強く言えば、大部分を忘れてしまっていると言っても過言ではない。どんな本でしたかと言われて、思い出して言えるのは大きな「骨組み」であり、あるいは印象に残った細部です。これはプロでも同じことです。不完全な読書であっても読書である、というか、読書はすべて不完全なのです。こうしたことが、ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』(ちくま学芸文庫)で真面目に論じられているので、ぜひ読んでみてください。

また、たくさん本を読まなければならないというプレッシャーから、速読に憧れるかもしれませんが、速読法は意味がないと思っていいです。自分に無理のないスピードで読書の経験を積んでいくことで、読むのは自然と速くなるのです。超人的なスピードにはなりません。月に何百冊などと豪語するものがありますが、ありえません。ありえないというか、その冊数は飛ばし読みだということで、ポイントだけつまみ食いするのなら百冊も可能かもしれない。ですが、ある程度ちゃんと読むなら、人間の生物的限界としてそれは無理だと思ってください。

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