戦争、分断、格差…「力」の前に「正義」は無力なのか コロンビア大学名物授業に学ぶ政治哲学の意味

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天秤を持つ像
世界標準の「正義論」を通して、世界情勢について考える(写真:Lukas Gojda/PIXTA)
アメリカ・コロンビア大学でリベラルアーツ教育を修め、その後グローバルに展開する世界最大級のコンサルティング会社KPMGの日本人幹部社員(パートナー)としての経験をもつ政治哲学者の中村聡一氏。このたび『「正義論」講義』を上梓した氏が、世界標準の「正義論」を通して、ウクライナ紛争など現代の世界情勢について考える意味を語る。

昨今の政治情勢に強く想う。ロシアによるウクライナへの侵攻は、西洋哲学の根源にかかわる問題だ。

「正義論」講義: 世界名著から考える西洋哲学の根源
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その起源は、今から2400年以上前の「ソクラテス×トラシュマコス論争」にまで遡る。これについて、ソクラテスの弟子プラトン、プラトンの弟子アリストテレス、この3代にわたる師弟が掘り下げ大いに論じた。

西洋哲学とは彼らから発している。彼らなしの“西洋哲学”はないしそれを語ることもできない。学生時代をすごしたコロンビア大学で叩きこまれた。その揺るぎない信念は“正義”とその確立だ。

拙著でも取り上げている「ソクラテス×トラシュマコス論争」に絡めてウクライナ問題を考えたい。

「ソクラテス×トラシュマコス論争」

意外にも知らない人たちが多いが、プラトン著『国家』の冒頭に登場するソクラテスとトラシュマコスの激論は海外の知識人のあいだでは有名だ。西洋哲学のルーツとも言える。『国家』は、プラトンの師であるソクラテスを主役にした対話編の大著である。

プラトンは書のなかで、現代まで続く重要なテーマを投げかけている。

徳行/欲望と理性/富と幸福/権力と権力/社会契約/偽善/男女同権/私的所有権と公共財産/美質と気概/自律規範/教育/公共的正義/国政の比較考量/形而上哲学(イデア論)/善悪の宗教観(最後の審判)

政治哲学上の諸問題はあらかた含まれる。

後世の学者は、ソクラテス・プラトンが発したこれらの問題にそれぞれの解を見つけようとした。それが西洋哲学だと言ってよい。「ソクラテス×トラシュマコス論争」は『国家』の冒頭第1巻に登場する。多岐にわたるこれらの論題を提起する“始まりの始まり”なのだ。

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