ショパンコンクールの優勝者が語るライブの魅力 ブルース・リウ氏「レコーディングは化学実験」
——2022年12月に日本で行ったリサイタルでは、アンコールを5回弾き、そのうち1曲はプログラムのメインの1つになってもおかしくない難曲の「ラ・カンパネラ」でした。これは、どんな狙いがありましたか?
リサイタルをディナーコースだとすると、アンコールはデザートみたいなところがある。僕はいつも、アンコールをリサイタルの第3部と位置づけています。
プログラムの最後に弾いた、リスト「ドン・ジョヴァンニの回想」はヘビーなステーキを食べるような曲目なので、その後には口直しという感じで、少し違うものを並べた。アンコールで5曲弾いたのは聴衆のリアクションがとてもよかったからです。あそこまでたくさん弾いたのはたぶん初めてです。
①ラモー: 優しい嘆き
②ラモー:未開人
③ショパン:ノクターン第20番 嬰ハ短調 遺作
④ショパン:3つのエコセーズ op.72-3
⑤リスト:パガニーニ大練習曲集 第3曲「ラ・カンパネラ」嬰ト短調
リストはピアニスト泣かせの作曲家
——プログラム前半ではショパンの「ラ・チ・ダレム変奏曲(モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」の『お手をどうぞ』による変奏曲)」、後半ではリストの「ドン・ジョヴァンニの回想」という、同じオペラを基にした曲を演奏しました。
ショパンの曲は「ラ・チ・ダレム」という部分のピアノ向けのバリエーション(変奏曲)ですが、リスト「ドン・ジョヴァンニの回想」はオペラのスコアに忠実な構成なので、ピアノ1台で表現するのはすごく大変です。何より、難解な楽譜を書くリストはピアニスト泣かせの作曲家です。
間違わずに弾こうと思うと、全然いい演奏にならない。リストの曲は間違って当然というくらい難しいけれど、演奏者がエネルギーを失わず曲の面白さをなくさずに弾くためには、流れに乗っていかなければいけない。そうすると、絶対に細かな失敗は出てくるので、ピアニストにとって、満足することがほぼ不可能な作品でもあります。
ただ、オペラと同じようにオーバーチュア(序曲)があって、中盤に男女の掛け合いがあって、最後は非常に華やかに終わるという構成は、作品としてとても面白い。
——私はリサイタルでの実演とショパンコンクールの配信動画とでブルースさんの演奏の印象がかなり変わりました。
僕の演奏のどういうところが、実演と動画で違いますか?
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