ショパンコンクールの優勝者が語るライブの魅力 ブルース・リウ氏「レコーディングは化学実験」

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――とくにショパンについて、実演では音全体がより調和して聴こえるような気がしました。コンクールの動画だけでは理解できなかった新しい解釈を、実際に聴くほうが自然なものとして受け入れられる感じでした。

ピアノの音、広い空間での響き、生身の人間が弾いているという情報を全部あわせて1つの音楽として受け止めるからだと思います。そこにあるのは、先ほど言われた「ピアニストが体を動かすことで聴衆が感じるもの」だったのかもしれません。

同時に、ショパンに対する先入観を基に「次はこういう音が来るだろう」と思いながら聴くと、予想と違う音が聞こえてくる気もしました。ずっと目を離せずハラハラドキドキしながらクラシック音楽を聴くというのは、非常に新鮮な体験でした。YouTube視聴時にはなかった感覚です。

出生名は「シャオユー・リウ」だが、「シャオユー」の発音は多くの人にとって困難だろうと考えたのと、ブルース・リーが好きだからとの理由で、2020年、ファーストネームに「ブルース」を付け加えた(撮影:梅谷秀司)

僕だけじゃなく、アーティスト全体に言えることかもしれませんが、やっぱりライブのコンサートとYouTubeはまったく違う。

ライブのほうが色彩的に豊かになるし、ホールならではの響きもある。

ユーチューブは細かいところを聴くにはいいかもしれないけれど、感情や演奏のインパクトを体で捉えるという意味では、やっぱりライブしかないですね。

——ご自身のYouTube動画を見ることはありますか。

もちろん見ます。

演奏者本人がライブ演奏を聴くことはできないし、それをしないと自分の演奏を振り返ることができないからです。ただ、YouTubeで見ると実際の演奏よりも遅く感じることがあります。それと、細かいところがどうしても気になってしまうんですよね。

ときには、「あれ? これは誰だ?」と感じることもあります。ただ、それは結局、自分の声をテープレコーダーで聞いて違和感を持つのと同じようなものなのかもしれません。

古くからある形をとても大事にしている

——ブルースさんは今後CDを出すことも多いと思いますし、今は配信ビジネスやオンラインコンサートも注目されています。実際のコンサートに加えそれらに取り組む中で、それぞれの音楽の形をどう捉えていますか。

動画配信は4〜5年前ぐらいから普及し始めたような感じがします。僕が高校生のときはiTunesで1曲1曲ダウンロードするのが普通だったけど、今は月10ドル払えばどんな音楽も聴き放題。

パンデミックの影響もあり、動画配信が普通のコンサートに行けない人たちに広まったのはすごくいいことだと思います。新しい動画配信プラットフォームもあるし、僕もパリで行ったコンサートをライブ配信しました。

そして、実際に手で持つことのできるCDもすごく大切にしています。僕は古いもの、ヴィンテージが好きで、古くからある形をすごく大切にしているんです。近年また、LPがブームになり戻ってきた。そんなふうに歴史が繰り返される中で、古いものと新しいものが同時にたくさんあるというのは素晴らしいことです。

レコーディングをして、初めてコンサートとの違いを意識するようになりました。コンサートはあっという間に終わる。自分の表現したいことを聴衆と分かち合う中で多くの感情が生まれ、いろいろなことを体験できるところです。

一方でレコーディングはある意味、化学実験のようなところがある。例えば、違うピアノを使ってみたりとか、さまざまなことにトライしながら細かい部分まで追求する。テクニシャンと一緒に作っていく音楽である、と感じています。

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