まず注意すべき点は、この政策の暗黙の前提として「持続的な株高」があることです。日経平均株価は2012年末の1万0395円から2021年末の2万8791円まで、9年間で約2.8倍、年平均で12%も上昇しました。この期間だけをみれば、「家計金融資産における株式等の比率がアメリカ並みに高ければ、その恩恵はもっとあったはず」といえます。
ただし、株価が急上昇したこの期間は、異次元の金融緩和に支えられた「特殊な期間」であったことは明らかです。異次元の金融緩和は一時的なカンフル剤のはずだったものが、いつの間にか常態化しています。しかし、本来いつまでも続けられるものではありません。
昨年12月、日銀が長期金利操作の許容変動幅を従来のプラスマイナス0.25%から同0.5%に引き上げた直後に株価が急落したことなどを考えても、これまでの「株高」が持続可能なものかどうかは大きな疑問です。
少額投資非課税制度(NISA)等を活用した長期積立型投資は、株価変動リスクを軽減するひとつの手法です。しかし、異次元の金融緩和政策が転換され、利上げによって経済停滞が継続または深刻化すれば、中長期的にも株価が低迷・下落する可能性も否定できません。
過去20年のアメリカの家計金融資産増加には株高(年平均6%上昇)が貢献しましたが、その裏には、持続的な経済成長(名目GDP:年平均3.9%上昇)がありました。この間、日本の経済がほぼ横ばいであったことも忘れてはなりません。
「持続的株高という暗黙の前提」に基づいた政府のメッセージにも注意が必要です。「資産所得倍増」というキャッチフレーズの下で「投資奨励」を行えば、「投資をすれば、資産所得倍増(とまではいかなくとも少なくとも儲け)が期待できる」との誤解を生む可能性もあります。
政府の言い分を鵜呑みにはできない
ちまたの金融機関ではなく、「政府」が「奨励」するのですから、メッセージの出し方には細心の注意を図るべきです。私たち国民も、政府の言い分を鵜呑みにせず、「自己責任」を強く意識した行動をとるべきであることは言うまでもありません。
より注意すべき点は「経済成長への期待感」が欠如したままであることです。「貯蓄から投資へ」との政策は、小泉純一郎政権時に強く打ち出されましたが、それから20年経っても、金融資産に占める「株式等」の比率はほとんど変わっていません。
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