ただ、日本でも過去、この比率が大幅に上がった時期があります。80年代後半の「バブル期」です。株価が右肩上がりを続ける中、誰もが株式投資に走った時代です。バブルという「異常な時代」なので、これを引き合いに出すことにはためらいもありますが、一つ言えることは、この時代には、「将来に対する楽観論や成長期待」があったことです。
その後、日本人の多くは、バブル崩壊による大きな痛手を受け、先行きの見えない長期経済停滞期の中で、株式投資を控え、現預金志向を強めたことは自然の流れとも言えます。こうした過去からは、株式投資拡大のカギは、制度うんぬんよりも、「将来の成長期待」であることが読み取れます。
「貯蓄から投資へのシフト」を進めたいのであれば、NISA恒久化などの制度改革もよいですが、岸田政権は、まず、「将来の成長期待」を生み出すような実効性を感じさせる「成長戦略」を打ち出すべきでしょう。
日本をどんな国にしたいのか見えない
さらに言えば、「資産所得倍増」政策によって、日本をどのような国にしようとしているのかが見えない点も問題です。投資余力のある資産を有している層は一部に限られる中、もし、目論見通り、株価が上昇し一部の富裕層がより潤っても、経済成長して所得が伸びなければ、多くの国民が生活に息苦しさを感じる世の中が続きます。
富裕層や大企業が潤えば、それが経済全体に波及するという「トリクルダウン」が実際には機能しないことは、この10年で実証済みです。「経済成長を伴わない株高」は、格差拡大といった弊害を生み出します。政策によって実現しようとする国の姿を明確に示してほしいと思います。
「金融教育」にも注意が必要です。「金融教育」自体は、「資産所得倍増」政策がなくとも、より充実させるべきと考えていますが、「現金で持っているよりも、株式投資の方が有利ですよ」といった「投資偏重」の金融教育は、国民全体を不必要なマネーゲームに引き込んでしまう恐れすらあります。
「金融教育」は、「資産所得倍増」を目的とした「投資教育」ではなく、「税・社会保障」「借り入れ」「保険」、さらには「賃金」なども含め、生活全般に関わる「総合的な金融知識の獲得を目指すもの」とすべきです。
日本経済全体が活力を失うなか、2000兆円もの家計金融資産は、国内に残された貴重な「ストック」です。将来の成長が見えないなかで、短絡的にこれを「株式等」に向かわせるのではなく、国の目指すべき姿を明確に設定した上で、幅広い観点から、この貴重な「ストック」を活かす方策を考えていくべきと思います。
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