食料危機や健康不安「土が解決する」決定的理由 「日本の土」が持つ"とてつもないポテンシャル"

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――非常に面白い試みですね!

これまでの近代的手法とは真逆の、生態系に配慮して地域内で循環させる持続可能な農業にシフトする「アグロエコロジー」という考え方が世界各地に広がってきていますが、これは日本には、昔から当たり前のようにありました。

豊かな森林や水田に囲まれ、虫や鳥や雑草も含め、すべてに神が宿るとするアニミズムの生命観を引き継いだ農村中心の日本では、有機農法は単に農薬を使わないというだけでなく、循環の思想そのものでした。とても多様性に満ちていて、全国で多くの方々がさまざまな知恵で実践してきたのです。

例えば「高機能炭」を使うある田んぼは、化学肥料を一切使わないのに、周りと比べて色艶がよく茎も太くて長いイネが育っていました。日本人に馴染みの深い炭は、高温で焼いて完全炭化させた無機炭になると、まるで快適な高級アパートのように微生物がのびのび増える環境をつくるのです。この炭化装置をつくっているのは、日本の中小企業でした。

高機能炭和歌山研究所の中田稔所長は、落葉と高機能炭を混ぜた真っ黒の土を畑にまくことで、その土地の土着菌を増やす手法について熱心に語ってくれましたが、ここでのカギもまた、「土壌微生物」でした。

「いくら外から肥料を入れても、地元の土着菌にはかなわない」という言葉が、非常に胸に刺さりましたね。アメリカに住んでいたときは、栄養もお薬も「外から足す」という、近代科学の考え方が主流でしたから、まさに逆の発想でした。

――その土地に固有の土着菌を増やすという発想は、目からウロコです。

すべての土地には、気象条件や水質、土の特性に合った最適な菌がすでにある。そう考えると、作物を画一化し、デジタルで農地も畜産も大規模に遠隔で管理して、という工業型のやり方が最もそぐわないのが「農業」であることが見えてきます。

インドなどで、土壌を守り小規模農業を多様におこなう「農村主体」の手法こそが最も経済的だ、という考えへと見直しが進んでいるのも同じ流れですね。

肥沃な土壌で育った野菜で「血液はサラサラ」に

もう一例あげると、微生物の可能性を最大限引き出す「食」に関するユニークな取り組みをしているのが、菌ちゃん先生こと、「大地といのちの会」の創設者・吉田俊道さん。

この方は長崎県庁に勤務していた際、「農業基本法」に沿って、地域内の農地を消毒する指導をして回っていました。バイ菌と一緒に、土壌微生物は減少し、かえって外敵に弱くなる。何度も使うと効かなくなって消毒回数が増え、栄養が減った野菜ほど虫がつく。そこに化学肥料を入れてさらに土着菌死滅……と、当時は悪循環だったそうです。

「あ、自分が消毒して、土を弱くしていたんだ」と気づいた吉田さんは、退職後に自らの畑で、県庁時代とは真逆の方法を始めました。消毒や農薬散布は一切せず、発酵させた生ゴミや雑草を菌と一緒に畑に撒いたのです。すると土壌微生物が元気になり、ミネラルが増えた生命力あふれる美味しい野菜を食べたら、腸の調子もよくなってきた。

そこで全国の保育園や小学校で、土壌を発酵させる「菌ちゃん野菜づくり」指導を開始、腸内微生物を元気にする菌ちゃん給食メニューも提案してみました。その結果、子どもたちの平熱は上がり、ドロドロに固まっていた赤血球がきれいになる等、驚きの結果が続々と出てきたのです。

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