受信料見直しで揺れるBBCはNHKの見本になるか 日本人が無視できない公共放送の行方

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BBCは民間放送企業としての開局から、今年10月で100周年を数える。1927年に公共的な放送局として組織替えした。

1920年代から、BBCの国内活動の資金ほとんどは受信料収入による。支払い対象となるのは、BBCを含むいずれかのテレビ局の番組を放送時にあるいは後で視聴する世帯だ。さらにBBCの放送と同時配信および見逃し視聴ができるオンデマンドサービス「BBCアイ・プレーヤー」を使って番組を視聴あるいはダウンロードする世帯も対象となる。テレビ受像機のあるなしにかかわらない。

金額は一律徴収で年間159ポンド(約2万6000円)。ただし、低所得の高齢者など一定の条件を満たす人は支払いが免除される。

ちなみに、NHKの受信料は衛星放送も受信できる場合を選択すると、クレジットカード払いで2万4180円。物価や賃金体系が異なるため単純比較はできないが、それほど変わらないレベルであろう。

最新の年次報告書(2021-2022年)によると、受信料収入の総額は38億ポンド(約6100億円)に達する。これに国際ラジオ放送「BBCワールド」運営のための政府の交付金、制作コンテンツを海外市場向けに販売する商業部門関連の収入を合わせると、53億3000万ポンドに上る。職員数は約2万1000人だ。

BBCは約10年ごとに更新される「王立憲章(ロイヤル・チャーター)」によって、その存立が定められている。現行の王立憲章の有効期間は2017年1月から2027年12月末。この期間内は受信料制度が継続されることが決まっている。焦点となるのは、2028年以降、どうなるかだ。

受信料の金額は政府とBBCの話し合いで決定される。1月、ドリス前文化相は159ポンドの受信料を今後2年間、2023年−2024年度まで値上げをしないと発表した。その後はインフレ率に上乗せした形で上昇する。

現行の金額は2020−2021年度から続いているが、イギリスは今、物価とエネルギー価格の急騰が国民の生活を直撃している。10月のインフレ率は前年同月比で11.1%上昇し、過去41年で最高水準になった。11月は微減に転じたものの10.7%。インフレ率を加味すると、受信料収入は実質的に2桁台の減収となる。

受信料制度の土台が崩れてきている

受信料制度が「維持できない」理由はメディア環境の激変だ。

放送局が提供する番組を局側が設定した番組表に沿って放送と同時に視聴する、いわゆる「リニア視聴」から、好きなときに番組を視聴する「オンデマンド視聴」へと視聴形態が変わってきている。デバイスもテレビ受像機からノート・パソコン、スマートフォン、タブレットなど複数の選択肢がある。

BBCを含むイギリスの主要テレビ局は15年ほど前からオンデマンド・サービスに力を入れ、無料で利用できることもあって広く普及したが、若者層は既存の放送局が提供する番組コンテンツではなく、動画投稿サイト「ユーチューブ」や短尺の動画をシェアする「TikTok」を好むようになった。

同時に、アメリカ発祥の有料動画サービス「ネットフリックス」「アマゾンプライム」などが巨費を投じて番組制作し、その配信コンテンツは多くの人を魅了している。

つまり、「同じ番組を放送時に視聴する」という行為が次第に脇に追いやられてしまった。視聴者はそれぞれ好きなときに好きなデバイスで好きな番組やコンテンツを視聴している。同額を一律徴収する現在の受信料制度の土台が崩れてきているのである。

NHKは2008年か12月から見逃し・アーカイブ配信サービス「NHKオンデマンド」を有料で開始しているが、受信料契約者の世帯を対象に放送同時・見逃し配信サービス「NHKプラス」を無料で提供したのは2020年からだ。

イギリスではBBCが当初から無料で「BBCアイ・プレーヤー」サービスを開始し、ほかの主要放送局も原則無料でサービスを展開したことによって、オンデマンド市場が一気に発展していった。

また、NHKのネット配信サービス(NHKオンデマンド、NHKプラス、NHK防災アプリなど)は従来NHKが行なってきた放送業務を補完する「任意業務」として位置づけられている。イギリスでは、ネットが生活の一部になった今、放送局によるネット配信は本業の一部である。ゆくゆくは日本もそうなっていくだろう。

オンデマンド市場で先を走るBBCの今後は、NHKの将来を考える上でヒントになりそうだ。

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