受信料見直しで揺れるBBCはNHKの見本になるか 日本人が無視できない公共放送の行方

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では、「公共のための放送局」BBCはどのようにして収入を得ればよいのか。

今年7月、貴族院の通信・デジタル委員会が受信料制度に代わる資金調達方法について調査を行った結果を報告書としてまとめている。

複数の例が紹介されているが、1つ目が広告収入のみの場合だ。BBCの収入が減り、広告収入を主要な収入源とする民放への負の影響がある。また、広告主の要求に沿う番組作りとなり、質が落ちる可能性がある。

2つ目が有料購読制。これも収入が減る見込みで、視聴者の幅を大きく限定することになる。国内全体に価値あるサービスを提供するというBBCの存在目的を満たすことができなくなる。

3つ目は、所得額と関連付けた金額を徴取する案。価格が上下する、不公平感が出る可能性などが指摘された。

4つ目が、通信税を導入する案。ブロードバンド環境の違いによって、これも不公平感が出る可能性ある。

5つ目が、普通税の一部とする案だ。視聴する・しないにかかわらず一定金額を徴取するが、住宅の価値によって決まるカウンシル税(地方税に相当)にひもづけるなどで不公平感を解消させる。ただし、住宅の価値が高くても収入が低い場合、逆に不公平感が増す場合もありそうだ。

ほかには、公共サービスとしての意義が高い番組に公的資金を投入するハイブリッド型として、国内の活動は受信料で海外市場では有料購読制とする、なども提示された。

受信料制度を廃止する国が相次いでいる

欧州各国では、公共放送の受信料制度を廃止する国が相次いでいる(委員会調査などによる)。ドイツ、フランス、フィンランド、スイス、ノルウェー、スウェーデン、デンマークなどがそうである。 

ドイツやスイスでは普通税の一部が使われ、フィンランド、スウェーデンでは所得税から公共放送用の資金を捻出。ノルウェーとデンマークは国家予算として割り当てられ、フランスは消費税を資金源とする。何らかの形で税金を投入し、公共放送を維持する流れがある。

欧州の他国で一定の金額を一律に徴収する受信料制度の維持が困難になったのは、イギリスの場合同様、メディア環境の変化とそれに伴う不公平感の広がりだった。

しかし、イギリスの場合、税金と関連付ける収入源は時の政府や政治家の影響を受けやすく、報道機関としての独立性を重要視するBBCにはそぐわないという見方が強い。

欧州放送連合(EBU)は公共放送の資金繰りについて考えるときに守られるべき指針を出している。「安定し、適切かどうか」「政治的および商業上の利益から独立しているか」「国民および市場から見て公正か」「調達方法に透明性があるか」である。

イギリスでは、クリスマスから年末にかけての休暇期間後、元旦の翌日2日から通常業務モードに切り替わる。政府とBBCは、2028年以降の公共放送の新たな資金調達方法について、年明け早々本格的な話し合いを始める見込みだ。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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