紫式部「源氏物語」実は冒頭の場面がえげつない訳 帝に寵愛されるシンデレラガールも楽ではない

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しかしこの場面、面白いのが「なぜ帝はいきなり桐壺更衣を溺愛することになったのか」という経緯はまったく描かれていないところ。帝の寵愛によって桐壺更衣がいかに意地悪されたか、はこの後も散々描かれるのに。肝心の、帝に溺愛された経緯や理由は描かれていないのだ。『源氏物語』には、桐壺更衣と桐壺帝の出会いの場面すら存在しない。

一方で、冒頭に挙げた大ヒット少女漫画『あさきゆめみし』。実は、『あさきゆめみし』では桐壺帝と桐壺更衣の「出会い」と「寵愛に至る過程」がしっかりすてきなエピソードとして描かれているのである。

「……美しい 羽衣を返せばたちまち天に昇っていきそうな」
「……お許しあそばして……」
「……あなたが天女なら……わたしは月読(月の精)だ…… 月に顔を観られてなんの恥じることがありましょう」

※大和和紀『あさきゆめみし』①、講談社より引用

これが桐壺更衣と桐壺帝の出会いの場面である。月の夜に偶然出会い、お互い一目惚れするという、なんとも少女漫画らしい物語になっている。しかしこれ、完全に漫画家・大和和紀さんの創作なのである。『あさきゆめみし』が少女漫画としてヒットした理由は、このあたりにあるのでは、と私は思っている。

『あさきゆめみし』は恋の過程が描かれている

原文では、桐壺更衣が桐壺帝のことを愛していたのかどうか、正直よくわからない。そんなことよりあまりある権力に翻弄されていたら人生が終わった、という印象すらある。

しかし『あさきゆめみし』はちゃんと桐壺更衣が桐壺帝に恋をする過程も描かれている。桐壺帝が最初は自分の権力を自覚してひっそり恋を育もうとする場面、弘徽殿女御にいじめられていたら帝が助けてくれた場面など、「桐壺帝ってすてき~!」と思わせるエピソードが詰め込まれているのだ。ここが天下の1800万部少女漫画になりえた理由ではないか。

結局、桐壺更衣は光源氏を産んだものの、寵愛ゆえの心労がたたって、光源氏が3歳のときに亡くなってしまう。

ちなみに原文『源氏物語』には、帝の遣わした靫負命婦が、桐壺更衣の母に会いに行くという場面がある。こちらも『あさきゆめみし』ではばっさりカットされているのだが、せっかくなので少し覗いてみよう。以下は桐壺更衣の生前の思い出を語る、桐壺更衣の母のせりふである。

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