恐怖の「親塾」中学受験に苦しんだ娘の驚く30年後 「もう母親に連絡を取ることはありません」

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赤本の解説を自分で読み、問題を何度も解いた。解説を読んでもわからないことが出てきたときは、塾の授業後に先生をつかまえて「教えてほしい」と頼んだ。学年が上がり、通塾は週3日に、しかし、6年生を迎えても相変わらず塾で中学受験問題を扱うことはなかった。つまり、試験突破のためのテクニック的なことは何も教えてもらえない。

“国語は得意科目だからきっちり点数を取りにいこう”“算数は計算を絶対に落とさない”。佳乃さんは赤本の解説を頼りに自分なりに試験に向けて答案づくりのマネジメントを始めた。しかしこの努力は、佳乃さんみずからのやる気を原動力にしたものではなく、母に怒られたくないという恐怖心からの行動だ。模試を受けても成績は今ひとつ。

不幸中の幸いだったのは、母親が、少しでも偏差値の高い学校を目指させる受験とは考えていなかったことだ。4年生から行き始めた学校見学行脚でも、自宅から通える範囲の中で佳乃さんの偏差値帯に合ったところを中心に回ってくれた。佳乃さん本人はというと、私立にさえ合格できれば母の気持ちは収まるのだから、とにかく自分の成績で合格できそうなところを志望校にしようと決めていた。

そんな中、見学に訪れて母親が気に入ったのが上野学園中学だった。今でも1学年50人以下と少人数教育を貫いているが、自宅からの通学距離も申し分なく、なにより、佳乃さんの成績ならばなんなく合格できるように感じた。

母親が提案したのは、この学校の推薦入試だった。他校の一般入試よりも先に合否がわかるため、ここで合格を取れば、母親の中での第1志望、自身の母校にも挑戦できると踏んだのだ。

推薦には小学校の成績が必要だった。当時、佳乃さんの通った小学校の評価方法はABCの3段階評価。佳乃さんは国語と美術はAだったものの、あとは全てB、体育はC評価がついていた。推薦入試では書類に加えて親子面接も課されていた。

自主性なんてなく、恐怖心から挑んだ受験

小6の秋に迎えた面接本番。

「本校を志望する理由を教えてください」

試験官から出された質問にはなぜか母親が全て答えていった。“これは落ちたな”。母親の対応を見てそう直感したと話す。結果は佳乃さんの予想通り不合格。だがこの結果を母親は佳乃さんのせいだとなじりたおした。

「あのC判定で落ちたんだ」

「あんたがデブだから落ちた」

「もういい。あんたなんか地元の中学に入っていじめられればいい!」

「中学受験なんて止めちゃいなさい!」

支離滅裂な言葉をぶちまける母親。元々佳乃さんが自分の意思で挑んだ中学受験でもない。佳乃さんは止めさせてくれるものなら止めたいという気持ちはあったが、今ここで「じゃあ止める」と言えば、もっと母親は怒るに違いない。佳乃さんは恐怖心から「やらせてください」と母親に頭を下げて頼む行動を取ったと話す。

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