例えば、中学受験算数の代表格「つるかめ算」などを連立方程式を使って説明。確かにこれが使えれば解はすぐに導き出せる。しかし、連立方程式を学校で習うのは中学に入ってからだ。もちろん小学4年生の佳乃さんは知らなくて当然なのだが、母親はそれを許さなかった。御三家を目指すようなクラスのある塾では、算数的能力の高い子に対して説明をすることはあるようだが、それはあくまでもこういう解き方もあるという方法として教えているもので、4年生の子どもに対して教えることはない。しかし佳乃さんの母親は、闇雲に連立方程式のやり方を覚えさせて問題を解かせようとしていた。
「私は別に勉強が嫌いだったわけでもないんです。新聞やニュースを見て新しい情報に触れることも好きでしたし、本はルポとかが好きでした。テストでいい点数が出るわけではなかったけれど、授業で新しいことを習うのは好きだったんです」
「おいブタ、あんたはバカなのか!」と頭を叩かれ
だが、母が覚えろと言う連立方程式は佳乃さんには理解できなかった。一向に入試問題が解けるようにならない佳乃さんに対し、母親はいらだつようになり始めた。
「おいブタ、あんたはバカなのか!」
「何回言えばわかるの!」
母親はこう言い放ち、間違える度に頭を手で叩いてきた。そのうちに手で叩くのが痛くなったのか、赤本の角で頭を小突くようになった。しばらくこの「母塾」が続いたが、やっと自分で教えることを諦めたのか、佳乃さんを塾に連れて行く。
訪れたのは兄が通っている塾だった。地元の中学に上がる子が通う学習塾で、高校受験には対応するが、中学受験のために通う子はいなかった。自宅から少し離れた場所に中学受験を扱う進学塾があることはわかっていた。だが、母親は、佳乃さんの兄をお願いした近所の塾に佳乃さんを入れる選択をした。
「中学受験塾にも説明は聞いていたと思います。でもそこは、学年が上がると塾弁が必要になるし、経済的にも難しかったんだと思います」(佳乃さん)
中学受験を知らない人から見れば、塾ならどこでも同じだろうと思われるかもしれないが、中学受験に対応した指導をしてくれる「進学塾」と、学校の勉強についていくことや、学校の成績を上げることを目的に置く「補習塾」では取り扱う問題も違うため、指導も異なる。
佳乃さんの入った塾は後者のため、受験問題の解説を塾の授業で取り上げることはない。しかし、「母塾」で教わるよりも何倍もマシだと感じた佳乃さんは、自力で受験勉強に挑もうと決意した。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら