上條さんは言います。「確かに、私は消せないものを消そうと焦っていた気がします。ただ、どうやってその消せない不安と付き合っていったらよいのでしょうか。そのことを考えないようにしたらよいのでしょうか」。
自分の努力ではどうしようもない時点で、考えてもしょうがないのですが、意図的に「考えないようにする」という方法は逆効果です。考えないようにするというプロセスのなかでは、むしろそれを強く意識するようになるため、余計に不安が強まってしまうことが心理学の研究ではわかっています。
では、不安を考えないようにするのが難しいとしたら、どうしたらよいのでしょうか。
1つ言えるのは、時間が経つなかで不安の程度は和らいでいく、ということです。患者さんはみな、数カ月に1回の検査結果を聞く前には大きな不安に襲われますが、繰り返していくと落ち着いていきます。「あぁ、また来たな。もうこればっかりはしょうがないな」という感じで、不安に少しずつ慣れていくのです。
もう1つ、今ある不安を消す方法に安定剤(抗不安薬)の服用があります。どうしようもないときに、薬を使えば速やかに不安にフタをすることができます。依存性は避けて通れませんが、つらいときに時々頓服として使用するなら、それほど心配しなくてもいいですし、常用するようになっても、状況が落ち着いたら医師の指導のもとで徐々に減らしていけます。
「行動を変える」が最初の一歩
もちろん、薬を使用したくないという人も多いでしょう。その場合の対策として「認知行動療法」というものがあります。行動を変えることで、認知、つまり感情の在り方を変えていきます。
不安で困っている人も、実は1日中不安にさいなまれているわけではありません。友達とおしゃべりをしていたり、テレビに熱中していたりするときはあまり不安にならないという人も多いのです――。
上條さんに一通り話した後、私は「もしよかったら、このシートを数日でよいから埋めてきていただけないでしょうか」と、あるものを手渡しました。これは「週間活動記録表」といって、生活のなかでどのようなときに不安になっているかを自分自身が知るための記録です。
ご自身のざっくりとした主観でよいので、1日の行動と、そのときに感じた不安の程度を100点満点でつけてもらいます。この記録表を用いて1日の行動を工夫してみる方法は、科学的にも有効性が示されています。

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