「不安に支配されそうな心」を取り戻す最初の1歩 自分の「考え方のクセ」を知ることから始めよう

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「大変な一連の治療が終わってホッとするかと思ったら、むしろ精神的にとても落ち着かないんです。頭が少し痛いと、脳に転移があるのではないか、腰が少し重いと、骨に転移があるんではないかと心配になります。いつもなら気にも留めない体の些細な変化が気になってしょうがないのです。ときにどうしようもない不安感に襲われて、いてもたってもいられない気分になるのです」

実は上條さんのように、「治療が終わってからのほうが不安」という方は、意外と多いです。

治療中は身体的には大変ですが、がんという病気を体から取り除くという目標があり、やることもいろいろとあるので、不安を感じる人は多くありません。

ところが、目に見えるがんを取り除いても、がん細胞が体のどこかに潜んでいる可能性は残ります。ですので、治療が終わって時間ができると、今度は「潜んでいたがん細胞がまた出てきたらどうしよう」と、がんの再発に対する不安を感じながら、患者さんは過ごすようになります。

私は外来で、上條さんに不安という感情について説明しました。

「不安は、危険に対する備えを私たちに促してくれる感情なので、悪いものではありません。ただ、上條さんのように不安で頭がいっぱいになってしまったら、生活にも支障をきたしますから、工夫が必要ですね」

私がそう言うと、上條さんはうなずきます。そこでさらにこうお伝えしました。

「暗闇の中にいると落ち着かなくなるように、情報が少ないと不安は強くなります。ですので、まずはご自身の病気のこと、とくに再発の確率がどの程度なのかを知っておいたほうがよいでしょう。再発率が高いとショックを受けるかもしれませんが、それを知らないと、その確率が5%なのか、はたまた70%なのかわからず、疑心暗鬼になってしまいます」

上條さんは「はい」とふたたびうなずいたあと、「実は自分の病気のことは知っておきたいと思ったので、怖かったのですが主治医の先生に聞いてみたんです」。そうしたら「再発する確率はおおむね20%程度と予想される」と言われたそうです。

望まない結果となる確率を下げる

このようなとき、「その20%に入ったらどうしよう」という不安と向き合うことになるのは仕方ありません。ただし、恐れていることが生じる確率を下げられれば、不安を和らげることができます。例えば、受験であれば、勉強をがんばることで、望まない結果となる確率を下げられます。このように、その方法を考えていけばいいのです。

しかしながら、上條さんの場合は、再発予防に有効とされる治療はすべて行っているので、自分でできる対策はすべて実施済みです。まさに結果を待つしかないわけで、つらいかもしれませんが「これ以上自分でできることはない。だから、この不安とは付き合っていくしかない」と、ある意味あきらめるしかないのです。解決できない不安を消そうとあがくと、焦ってしまって余計に不安が膨らんでしまいます。

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