屠蘇が漢方薬だと知ったのは、漢方を勉強し始めてからです。「屠蘇散」は三国時代の名医、華佗(かだ)の処方で、『千金方(せんきんほう)』という漢方の医学書に記載されています。
屠蘇は、「蘇」という悪鬼を屠(ほふ)るという意味です。これを元旦に飲むことによって疫病にかからない、予防と治療を兼ねたものでした。本来の処方には、烏頭(うず)や大黄など作用の強い生薬が配合されています。烏頭は殺人事件にも使われたトリカブトの根ですし、大黄は便や滞った血(けつ)を排出する生薬です。
正月に屠蘇を飲む風習は、平安初期に中国から日本へ伝えられ、主に宮中で行われてきたそうです。3日間続く儀式では、一献は屠蘇、二献は白散(びゃくさん)という漢方薬、三献は度嶂散(どしょうさん)という漢方薬が献上され、3日目にはあらゆる皮膚病を予防するとされる千瘡萬病膏(せんそうまんびょうこう)が献じられたそうです。
屠蘇散を元旦に飲む習慣は、江戸時代には庶民の間でも流行したそうですが、飲みすぎる人もいて、多くの中毒患者を出したそうです。それからは烏頭や大黄など作用の強い生薬は抜かれ、縁起物として定着しました。
「マイお屠蘇」の作り方
『千金方』の屠蘇酒の条文には、次のような飲み方が書かれています。
【屠蘇の準備】大晦日の晩に屠蘇散が入った三角形の赤い布袋を井戸の内側に吊るして1晩置きます。元日の早朝に取り出して、酒もしくはみりんに5~7時間浸します。現代で井戸のある家はほとんどありませんから、大晦日の夜に1合の日本酒かみりんに浸しておき、元日の朝にいただきます。
【屠蘇の飲み方】元旦、家族全員そろって新年の挨拶をしたあと、雑煮やおせち料理をいただく前にお屠蘇を飲みます。東の方角を向き、年少者から年長者へと順に盃を進めます。通常の酒席とは逆の順番ですが、これは“若者の気を年長者に分け与える”という意味合いが含まれているのだそうです。
【三が日のならわし】正月三が日の来客には、初献に屠蘇を勧めて新年のお祝いのあいさつを交わすのが礼儀とされています。千金方には「一人が飲めば一家が、一家が飲めば一里が病にかからない」と書かれています。
【屠蘇を作ろう】屠蘇は市販されていますが、身近な食材で作ることできます。自分だけの「マイお屠蘇」を作ってみてはいかがでしょう。
用意するのは、スパイス売り場にある、桂皮(シナモン)や丁字(クローブ)、陳皮(みかんの皮)、山椒(さんしょう)、生姜(ジンジャーパウダー)など。これらをひとつまみずつ、ほぼ同じ量を混ぜて、小さなお茶パックなどに入れます。1合の日本酒かみりんに浸しておけばできあがります。スパイスの組み合わせは自由ですが、陳皮を多めにすると飲みやすいです。
生姜や陳皮をはじめ、どれのスパイスも胃腸の働きを助ける生薬ですので、多めに作って年末年始の食べすぎに備えてもいいかもしれませんね。
生薬を活用して、よいお年をお迎えください。
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