バイトも学業もストイックに、将来のためにこなしていた結果、数える程度の友人にしか恵まれなかったという海野さん。しかし、これは将来、いい就職先を見つけるためである。決して勉強は好きだったわけではないが、彼は毎日講義には出席して、3年生になってからも就職活動は人一倍張り切った。
「就活にはガッツリ取り組んでいて、さまざまな企業の説明会には行きました。誰よりも早くからやっていたのですが、次第に周りがどんどん内定をもらって終わっていく中で、自分は1年間やっていても1社からしか内定はもらえず、最終的にその1社に入社しています」
聞く限りは人一倍マジメな海野さんだが、企業からそのストイックさはなかなか認められなかったという。
「確かに就活を甘く見ていた節や、自己分析が足りなかったなどの反省点はありますが、それよりも『学生時代は何を頑張ってきましたか?』という質問に対して、『サークルには入らず、バイトに励んでいました』といった回答ばかりをして、大学で成し遂げたことを話せなかったんです。つまり、僕にはアピールポイントがなかった。
でも、実際に仕送りがなかったので、奨学金を借りないといけないし、バイトをしないと生活ができなかったわけで。本当は勉強するために大学に入ったつもりだったのに、どんどん生活を成り立たせるために大学生活を送っている感じになってしまい、あまり青春っぽいことはしてこなかったんですよね」
婚約者との金銭感覚の違い
こうして、就活は消化不良で終わってしまい、小規模のIT企業に就職した海野さん。現在は、中堅メーカーで営業マンとして働いているという。奨学金の返済は、社会人になってからコツコツ続けているが、途中しんどい時期もあったようだ。
「奨学金の返済額は、毎月1万2000円です。今はなんてことのない額ですが、社会人1年目は引っ越して家賃が6万5000円に跳ね上がってしまったことで、奨学金の返済をストップしてもらう時期もありました」
奨学金の返済が始まってから、すでに100万円は返し終わった。残りの450万円は40代になるまで細々と返す予定だ。
そんな、海野さんには現在は婚約者がいる。しかし、彼女や彼女の実家とのあまりの金銭感覚の違いにはいまだに慣れない。
「彼女とは合コンで知り合ったのですが、いわゆるお嬢様で、実家は車も現金一括で購入できるぐらい裕福です。高校卒業後はオーストラリアに4年間留学しており、弟はアメリカで高校生活を過ごしていたそうです」
そんな彼女との間に子どもを授かった。妊娠が発覚してから、彼女の両親に会いに行ったところ、冒頭の出来事が発生したという。
「お義母さんは『奨学金はただの借金』という考え方で、目の前で泣かれたのは結構しんどかったですね。泣きたいのはこっちなんですけどね(笑)。『実家に頼んで450万円のうち、100万円ぐらいは工面してもらえないの?』とも言われたのですが、『他所の家の懐事情を知らずよく言えるよな』とは思ってしまいました。僕の父は70歳近いのに、タクシーのドライバーとして日夜働いていて、そんな家のどこに100万円があるというのでしょう……。
彼女も彼女で、僕が奨学金を借りていることに関しては『学ぶためのお金だったから仕方ない』と理解を示してくれるものの、『月の返済額を1万2000円から2万円に変えてさっさと返そうよ!』と言ってきたりします。その時は『自分なりのペースで頑張っているんだよ!』と言い返したくなってしまいますね。やっぱり、奨学金を借りている人と、借りてこなかった人との間の溝というのは、一生埋まることはないと思います」
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