幸いにも、義父は自営業ということもあり、経営の苦労が身に染みているため、海野さんの奨学金にも何も言ってこなかった。
「お義父さんは長年会社を経営しているため、僕の奨学金450万円についても『奨学金は借金だけど、悪い借金ではない。受け入れてあげようよ』とお義母さんに言ってくれました。まあ、お義母さんはなかなか理解してくれないのですが……。このときばかりは『大学なんて行くんじゃなかった』と思っちゃいました」
これから奨学金を借りる、高校生たちに伝えたいこと
奨学金を借りた甲斐あって、進学することができ、就職の範囲も広がった。しかし、彼の事情を何も知らない他人から奨学金のことを悪く言われてしまえば、マジメな海野さんだって不貞腐れてしまう。
「お義母さんの気持ちもわからなくはないですよ。確かに手塩にかけて育ててきた娘の結婚相手が、450万円の借金を抱えていれば、それは嫌だと思うでしょうね。彼女も『将来、子どもが借金持ちと結婚するのは嫌だ』と言っていましたからね(笑)。
それでも、『学びたい』という思いがあって借りた奨学金が、このような言われ方をされてしまうのは悔しいです。ただ、いくら言われても今の自分には受け入れること、ぐっと我慢することしかできません」
せっかく、貧困から脱出できたにもかかわらず、やり場のない怒りを堪える海野さん。前出のように奨学金そのものには感謝しているが、これから奨学金を借りようとしている高校生にはもう少し説明が必要だと感じている。
「当時は大学に行くために、わけもわからないままに奨学金を借りましたが、今考えると550万円も借りるのであれば、日本ではなく海外の大学にも入れたんですよね。名の知れたブランド校ならともかく、今では普通に大卒というだけでは結局就職で苦労するので、大学のうちから海外の大学に行って、帰国後に就活をしたほうがよかったのかもしれません。そのほうが『もっと奨学金を生かせたのではないかな』と思うんです。まあ高校生のうちからそこまでなかなか想像できないでしょうけどね……。
今、山本太郎氏の率いるれいわ新選組が、奨学金の返済をチャラにしてくれる『奨学金徳政令』を提言していますが、個人的にはこれが実現したら、本当に素晴らしいことだと思います。アメリカのバイデン大統領も、学生ローンの返済を1人あたり1万~2万ドルも免除すると言ってますしね。
ただ、これが実現したところで、結局他人からとやかく言われ続けるのは変わらないのでしょうけどね」
奨学金を「自己投資」と考えて、自身の将来に賭けた人が多く登場する本連載。海野さんも、不器用な部類ではあるかもしれないものの、自身の置かれた状況を変えていくために努力してきたのは間違いなく、自身の稼ぎでしっかり地に足をつけて生きられている以上、その賭けは一応成功したと言えるだろう。
だが、それでも周囲の人の「無理解」は、深く彼の心に突き刺さっている。
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