「そういう小さいお子さんに我々がつくった腎臓を移植する。移植した腎臓が生着してどれぐらいもつかはまだわかりませんが、その子が成長し体重が2キロになれば、透析という手段も可能になる。まずはそういう使い方でもありだと考えています」
透析と腎移植という治療法に異種再生医療という新たな選択肢を1日も早く加えたい――横尾教授の夢である。
「再生角膜」臨床試験で良好な結果
続いては、角膜の再生医療を見ていきたい。
西田幸二・大阪大大学院教授(眼科学)のチームは2022年4月、iPS細胞からつくった角膜の細胞を、視力をほぼ失った角膜上皮幹細胞疲弊症の患者4人に移植した臨床研究で、安全性と有効性を確認したと発表した。4例とも重い拒絶反応や腫瘍の形成などはなく、症状の改善や視力の回復が見られたという。
角膜は目の表面を覆う厚さ0.5ミリ程度の組織で、カメラでいうレンズの役割をしている。何らかの病気で角膜の細胞が傷ついて視力低下や失明などの症状をきたした患者に、角膜を移植して視力を改善させる角膜移植の歴史は古く、1905年にさかのぼる。
「でも、拒絶反応や術後合併症、角膜を提供してくださるドナー不足といった問題が長年ありました」と話す西田教授。角膜の再生医療の研究を始めたのは2000年ごろだ。
「角膜は上皮、実質、内皮という3つの層からできています。一般的に角膜上皮は移植しても拒絶反応を起こしにくいのですが、なかには拒絶反応が強く出る病気もあり、その場合は移植ができない。そこで、そういう病気を持つ患者さんのために、ご本人の口内粘膜を培養して上皮シートを作り、それを移植する研究を始めました」
2004年に世界で初めて手術に成功し、今では保険適用になっている。ただ、口腔粘膜上皮細胞シートは角膜上皮そのものの再生ではなく、あくまでも代替だ。純粋な角膜とは違って濁りがある。
そのため、西田教授は山中伸弥・京都大教授がiPS細胞を開発した2006年から、iPS細胞から角膜上皮を作る研究をスタート。2016年、iPS細胞を活用した「機能的な角膜組織の作製」に成功した。
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