そこで横尾教授が新たな治療の選択肢として研究しているのが、動物の臓器を代替する異種移植と再生医療の利点を組み合わせたハイブリッド医療ともいえる「異種再生医療」だ。複雑な構造体である腎臓そのものを作るのは難しいため、横尾教授は第3の治療法を患者に届けるにはこれが最も早いのではないかと考えている。
特徴は、動物の胎児の体内で行われる臓器の発生プログラムと場所を「借りる」こと。横尾教授が説明する。
「まず、摘出したブタの胎児期の腎臓(腎臓発生環境)にヒトiPS細胞から作製した腎前駆細胞(腎臓になるもとの細胞)を特殊な注射器で注入します。これが腎臓の種(Kidney Seed)です。これを患者さんの体内に移植すると、体内で腎臓発生プログラムが働き、成熟した腎臓まで分化し、最終的にiPS細胞由来の再生腎臓が完成するのです」
横尾教授らの研究チームはすでに2017年、マウスとラットとの間で腎臓の再生・移植を成功させた。現在はブタと人間に近いサルとの間で研究を進めている。異種移植では自分ではない異物を体に入れるため膨大な免疫抑制薬を必要とするが、現在の研究では少量の免疫抑制薬で済むこともわかったという。
課題は異種移植のハードルの高さ
とはいえ、実用化までは「課題が山積み」と横尾教授は言う。そのなかで最大の難題は、異種移植の規制が日本で厳しいことだ。ごく一部の医療以外、認められていない。
横尾教授の研究はヒトのiPS細胞を用いるが、ブタの細胞を使うため異種移植にあたる。そのハードルを乗り越えることが1つの課題だという。同時に異種移植が国民に受け入れられるための努力も行っていかなければならない。目標は5年以内の実用化だ。「今考えているのは、先天的に腎機能が低下している未熟児への移植です」(横尾教授)。
実は、人工透析は体重が2キロ以上ないと受けられない。そのため、腎機能が低下している未熟児は治療のすべがなく、死を待つしかない。
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