次に米国では、被保険利益はあくまで保険契約時に課せられた制約要件であり、いったん保険が成立してしまえば拘束性はない、と解釈され始めます。いわば、生命保険は契約者のもので成立後は自由に「譲渡」してもよいとの考え方です。これがその後の「生命保険買取りビジネス」を誕生させる根拠となりました。
エイズの流行がそのきっかけでした。余命あと僅かと診断されたエイズ患者から保険証券を買い取り、その後の保険料を払い続けるという仕組みです。これにより、エイズの末期患者はエイズ治療費や残された短い人生を豊かに生きるための資金をえることができます。
他方、買取り業者は患者が死亡することで、死亡保険金を手にすることができます。たしかに当事者双方にとってメリットのある合理的な取引です。加入している生命保険が資産として市場で売買されることになったこの取引はバイアティカルと呼ばれました。
日本でも生命保険買い取りの事例がありました。ただ、生保会社がこの買い取りに異議を申立て、裁判でこの主張が認められたことにより買い取りは止められました。その結果、その後の日本でバイアティカルは行われていません。
日本では商法にも、被保険利益の規定があり、損害保険では被保険利益のないものは保険として認められません。「利益なくして保険なし」の考え方です。一方で、生命保険には被保険利益の記載はありません。ただし、それに代わって被保険者が自分に保険のかけられていることを同意しないかぎり保険として認められない旨の予防措置が講じられています。
鎖から解き放たれつつある生命保険の賭博性
やがてエイズ治療の特効薬が発見されると、エイズ患者が長らく生きながらえるようになり、バイアティカルの仕組みが十分に機能しにくくなってきます。
そこで次なるターゲットとされたのが、ガン患者や心筋疾患の重症患者たちです。エイズ患者に比べるとその数は膨大ですからこの市場は大きく膨らみました。さらには、病人にかぎらず生命保険をおカネに変えたい健康な高齢者にまでその対象が広がっていきます。
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