実際、2020年に厚生労働省が行った調査によれば、全国の労働者のうち15%が過去3年で勤務先から「カスハラ」を受けたと回答していました。
その内容としては、「長時間の校則や同じ内容を繰り返すクレーム」が52.0%、「名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」が46.9%という結果でした。
「カスハラ」が横行する大きな理由が、「お客様は神様」という言葉が象徴するように、「金を払う客が『上』、サービスを提供する側が『下』」という固定的な「上下関係の意識」を持った人がいることが挙げられるでしょう。
キャビンアテンダントが地に膝をついて、客の話を聞く、店員は深々と頭を下げ、挨拶をする……。そもそも、サービスの現場において、日本ほど、スタッフが客にへりくだる国は他にありません。
「日本独特の思考」から「戦う」より「謝る」発想に
クレームは「宝の山」であり、その要望にこたえ続ければ、サービス品質が向上する、という「おもてなし」幻想が、過剰サービスにもつながっています。
日本人は常々、「異常な低料金」に見合わぬ「高いサービス」を受けることに慣らされており、期待値が上がりすぎてしまっていると言えるでしょう。
それと同時に、企業側としても「あらゆるリスクを回避したい」という日本独特の思考から、「『戦う』よりも、現場が『謝り』、その場を丸く収めればいい」という発想にもなりがちです。
非がなくても「ご迷惑おかけしてすみません」と謝れば、とりあえず、矛を収めてくれる人もいるので、頭を下げておく。そこで、クレーマーは「正しいことをした」と、承認欲求が満たされ、行動を繰り返す動機づけがされてしまうのです。
認知機能が衰え、感情の制御が効きにくくなる、耳が遠く、大声になりがちな高齢者が増えているという事情もあるかもしれません。
さらに、最近のSNS社会特有の事情もあるようです。
ある外食大手チェーン社長は、「かつては横柄な客に対しては店長権限で『この店の敷居はまたぐな』と強い調子で追い払うことができたが、今はその様子を動画に撮られて、客に都合のいい箇所だけをSNSにさらされる危険性がある。だから、どこまでも丁重に下手に出なければならない」と苦しい胸の内を話してくれました。
「頭を下げる、謝る、お礼を言うべきは常に、サービス提供者」といういびつで一方的な環境で、結果として、一部の客たちが増長してしまう側面はあるでしょう。
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