「最初のうちはデートをしても、コンビニや自動販売機でお茶を買うときに、『このくらいは私に出させてください』と言ってくれていたんです。もちろん出させたことはありません。あと、最初のうちは『この間は、すっかりごちそうになっちゃって』と、小さなお土産を持ってきてくれて、そういう気遣いがうれしかったんです。ところが最近は、僕が払うのが当たり前みたいになっちゃって。それだけ仲良くなったということなんでしょうけど、ちょっと複雑な心境です」
そして、顔を曇らせながら続けた。
「『クリスマスが近いから、何かプレゼントをするね。何がいい?』と聞いたら、『予算はどのくらい?』と聞かれたんです。そのとき、はっきりと金額をいえば良かったんですけど、僕もカッコつけちゃって、『欲しいものがあったら、それでいいんじゃない?』と言ったら、高級ブランドのバッグをねだられて」
おそらくそのブランドショップでバッグを買ったら、10万以上はする。さすがにそこは「いいよ」とは言えずに、「これから、結婚するのにお金もかかるし、指輪もプレゼントしたいし、そのバッグを今買うのはナシでしょ」と、冗談混じりに答えたという。
さらに、最近のとみえの会話は、仲の良い友達を引き合いに出すことが多くなったという。
「みっちゃん(仮名)の旦那さんが、高級外車に最近乗り換えたって」「サッチ(仮名)は、旦那さんが『子どもができる前に家を買おう』って言って、郊外に一軒家を買ったのよ」「今まで出たなかで一番素敵だった結婚式は、さなえ(仮名)のお式。お料理もおいしかったし、さすが一流ホテルは違うなって思った」
僕は一介のサラリーマン
てつやは、私に言った。
「僕は一介のサラリーマンですよ。湯水のようにお金を使えるわけではない。彼女の稼ぎは、あてにしていないし、今のようにお小遣いとして使ってもらえばいいと思っています。仲のいい友達を引き合いに出すけど、もし彼女たちにしっかりとした収入があったら、その家計は2馬力になるわけだから、高級外車でも、家でも、すぐに買えますよね」
てつやは、これまで女性にはお金を支払わせない、格好いい男を演じてきた。とみえはその優しさがうれしくて、謙虚に振る舞っていた。さらに親しくなる前だったから、遠慮もあっただろう。
しかし、いつしかそれが当たり前になってしまった。2人の距離が縮まったことで、甘えも出てきてわがままを言うようになった。私は、てつやに言った。
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