日本の社会全体に蔓延る「挫折不足」の大問題 「安全地帯」は子どもにとって本当に良いこと?

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しかし一度なりとも挫折を経験した人間は強い。挫折という逆境は自分の弱さに対峙することであり、自分の弱さを認めた人間は、それを乗り越える術はないか、じっくり考えて行動するようになります。

たとえ解決しないことがあっても、一度その難題に向き合った経験は、いつしか思考の血肉となり、次のステージに押し上げてくれる力となります。ですから挫折とは強い精神、折れないマインドを作るためのストレッチだと思ってほしいのです。

高く跳ぶためのバネを作る

失敗を何度も経験すると、挑戦すること自体をあきらめてしまう人が多いように思います。特に今いる場所で多少の評価や金銭的な安定を得られた場合はなおさらでしょう。

しかし、ある分野で失敗したからといって、他の分野でも失敗するということはありません。むしろ大切なのは、挫折の経験から、自分が勝てるフィールドを見つけ出すことです。

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私に青学陸上部の監督になってくれないかという話が来た時、誰もが反対しました。

せっかくビジネスマンとして成果を出して周囲からも認められてきたのに、いくらかつて陸上選手だったとはいえ、まったく指導経験がないのでは無謀だというのです。

そこで失敗すれば、どん底から築いてきた評価も、中国電力のビジネスマンという安定した地位も失ってしまうかもしれない。まして、私はマイホームを買ったばかりでした。そんなリスクを冒す必要がどこにあるのか、と考えるのは当然のことです。

しかし実を言うと、青学監督のオファーを受けた時点で、私にはある種の「勝算」 がありました。「一度グラウンドに来てください」と言われて視察に行った時に、「これは勝てる」と思ったのです。私は選手を引退してから10年間、陸上と無縁な生活を送っていました。指導なんてしたこともなければ、毎年の箱根駅伝をテレビで見てさえいませんでした。

その私がグラウンドに入った瞬間、 10年前と練習環境は何も変わっていないことが分かったのです。「ああ、陸上の文化は遅れている」と感じたと同時に、ビジネスの視点を応用して、それを変えれば勝てる組織は作れるはずだと直感したのです。

自分が勝てるフィールドを見分ける嗅覚は重要です。私は、ビジネスマンとして成績を上げていた時代に、ある生命保険会社からヘッドハンティングを受けたことがありますが、私の得意なフィールドではないと思い、すぐにお断りしました。

もちろん提示された給料も良いもので、条件を考えると喜ばしいお誘いでしたが、勝算がない挑戦は結果が出にくいこと、そこでは自分は輝けないということを自然と感じ取っていたのです。

人生における挫折の経験は、こうした嗅覚を鍛えることにつながるのです。

原 晋 青山学院大学 陸上競技部長距離ブロック監督、地球社会共生学部教授

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はら すすむ / Susumu Hara

1967年、広島県三原市出身。世羅高校、中京大学を経て陸上競技部第1期生として中国電力入社。故障に悩み、5年で競技生活を引退し、1995年に同社でサラリーマンとして再スタート。その後、ビジネスマンとしての能力を開花。陸上と無縁の生活を送っていた2003年、長年低迷していた青山学院大学陸上競技部の監督への就任話が舞い込む。2009年に33年ぶりの箱根駅伝出場を果たす。2015年には青学史上初となる箱根駅伝総合優勝に輝く。ビジネスの経験を生かした「チームづくり」「選手の育成」で陸上界の常識を破り、快進撃を続ける。

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