「奨学金1060万円」29歳の考えさせられる職業選択 元不登校児で定時制高校の出身、彼が今思う事

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ただ、さんざん苦労して入った大学だが、周囲とのギャップを感じることは何度もあったという。

「入学当初はサークル活動なんかも考えていたのですが、大学に入って1週間で相当な違和感を覚えるようになりました。入学前は『全国からいろんな学生たちが集まってくるのだから、友達もたくさんできるだろう』と思っていたのですが、最初の会話が高校時代の部活や放課後の話で、僕はそういったことを経験してこなかったのでついていけなかったんです。

自分が定時制出身と打ち明けると、そこまでの経緯も話さなくてはならなくなるので、それも嫌になって自然と聞き役に回ると、今度は距離感が生まれてしまう。大学生活を続けていれば、大学に入れば、ようやく人生をやり直せると思っていたのですが、むしろ大学1年生のときは不登校だったときや、定時制高校に通っていた頃以上の孤独感を感じていました」

それでも北条さんは腐らず、大学に4年間通い、その後は大学院進学を決意する。

「就活を始めた頃は自分の中に問題意識があったので、マスコミ・メディアを中心に企業訪問もしましたが、どうにもしっくりこなかったんですよね。というのも、一般企業に入ってしまうと、これまでの自分の不登校や定時制高校を卒業したという経歴が、仕事内容に直接結びつかないと思ってしまったんです。自分の過去の経験を生かせる分野に進みたいと考え、大学院で教育の勉強をすることにしました。

就職時期がさらに伸びるという理由で、両親からは反対されました。ただ、学部時代の学費は自分が奨学金とアルバイトで賄ったものだし、奨学金の一部は家の生活費と治療費に当てていた。家族の生活が成り立っているのは自分が奨学金を借りているおかげでもあったので、反対される筋合いはないと思って、半ば強引に決めちゃいました」

教員という立場で夜間の定時制高校に

大学卒業後、都内にある国立の大学院に進んだ北条さん。不登校と定時制高校についての修士論文を提出したのちに、都内近郊の夜間定時制高校の教員になった。予想外にも思える職業選択だが、こんな背景があった。

「大学院まで進んで教育のことについて研究している人というのは、その人自身、何かしら教育への問題意識があって取り組んでいるもの。尊敬できる人たちもたくさんいたものの、彼らの多くは裕福な家の出身で、親の年収は当たり前のように1000万円を超えていたし、学校の校長や大学の教授だったり、軽井沢に別荘があるという人もいた。でも、大学院にまで進学できる人の社会的背景を考えれば当たり前のことで、そういうグループの人たちが文部科学省など国の機関に進み、教育の未来を動かしていく……。

次第に『この人たちと同じ方向に進んでも意味がない』という反発心が芽生えていき、教員という立場で夜間の定時制高校に行くべきだと判断しました。同期たちが進んでいくような道に進む理由を見いだせず、同期たちに定時制高校の教員になる人がいないんだったら、その隙間を埋めることが自分の役割だと思ったんです」

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