ところで、1000万円近くの奨学金はどうなったのだろうか?
「現在の毎月の返済額は3万4000円程度です。背景には学費免除と、アルバイトの存在があります。大学院の2年間は利子の付かない第一種奨学金しか借りておらず、しかも成績優秀者になったことで入学金が半額に、学費が全額免除になったんですよ。この結果、JASSOで借りられる毎月8万円の奨学金は使わずにすべて貯金に回し、2年間で200万円貯めることができていました。
また、それ以外にも塾講師や治験、外国人留学生向けのチューターなどのアルバイトを5つ掛け持ちして在学中から貯金していたんです。これらの結果、大学院を出ると同時に貯金していた約250万を繰り上げ返済。さらに、教員になってからの3年間で350万ほど返済しています。利子のかかってしまう第二種奨学金の完済を最優先の目標にしてきました」
補足すると、奨学金を貯蓄に回すことは、制度上の趣旨からは外れてはいる。だが、JASSOによる罰則規定がないことや、第一種奨学金を受給するハードルが低くないことを考慮すると、彼の作戦に「賢さ」「堅実さ」を感じる人は少なくないだろう。
奨学金以前に国の支援はもっと手厚くならないのか
奨学金を借りたことで貧困、そして不登校からも抜け出した北条さん。現在、両親と3人で都内近郊に暮らしており、来年度からは心機一転、国の行政機関で働くこととなった。教育に関係する機関だという。彼の今までの生き方を振り返れば、そのキャリア選択に驚きはない。
ヤングケアラーだった子どものときと比べれば、かなりの成功譚となったようにも思えるが、それでも奨学金制度そのものには思うところもあるという。
「2017年からJASSOが返済義務のない給付型奨学金を新設したことは喜ばしいことですが、遅すぎると感じます。僕が大学に通っていた時代はまだこのような制度はなかったため、当時すでにJASSOの給付型奨学金があれば自分の生活状況はここまで追い込まれることはなかったと思います。
とはいえ、僕も教員を経験したのでわかりますが、JASSOが年間に貸し出している金額は、もうすでに数兆円規模になっているため、もはや『進学のための奨学金』というレベルを超えて、ひとつの社会インフラになっている側面があるのも事実です。僕と同じように、この組織がなければ進学どころか、生活もできない学生が現実には存在していますから……」
北条さんの話を聞いていると、奨学金以前に国の支援はもっと手厚くならないのかと思ってしまう。しかし、奨学金でしか貧困を抜け出せない現実がこの国にはあるのだ。
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