というのも、私には「ある苦い思い出」があります。
『食品の裏側』に私の半生を記しましたが、まだ私が食品専門商社で「添加物のセールスマン」をやっていたときのことです。
あるとき、同僚と2人である小料理屋に飲みに行きました。
有名料亭ではないけれど、大将がこだわりの料理を出す店で、私の大のお気に入りの店でした。
そこで酔っ払った私たち2人は「ある実験」を思いついたのです。
添加物のセールスをやっていましたから、カバンには「酵母エキス」のサンプルが入っていました。
それを運ばれたお吸い物にこっそり適量入れて、大将に「これ、どう思う?」と味見をしてもらったのです。
「何か『変なもの』を入れただろう!?」
「なんだこれは!? 何か『変なもの』を入れただろう!? 味がひっくり返ったぞ!」
顔を真っ赤にした大将に怒鳴られた私たちは、いっぺんに酔いがさめ、平謝りに謝り倒しました。
たぶん、そのお吸い物は、日ごろ「インスタント食品」に慣れている人ならば「おいしい」といって普通に飲める味だと思います。でも、毎日カツオと昆布で丁寧にだしを引いている大将の舌はごまかせなかったのです。
料理道を真剣に究めようとしている大将を試そうなんて、若気の至りとはいえ、本当に申し訳ないことをしました。
しかし、それほど、料理人は「だし」に命を懸けているものです。
その「料理人の誇り」が、「巨大なおせちビジネス」にからめとられ、「『化学調味料』や『◯◯エキス』や添加物を駆使して大量生産されたもの」に侵食されているとしたら、それは非常に残念な話です。
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