紫式部といえば、『源氏物語』を書いた才女というイメージが強いかもしれない。しかし実際、彼女の日記を読んでみると、かなり内向的で、宮中の仕事に対してもネガティブな感想を持っていることが見て取れるのだ。
紫式部は、宮中の華やかな儀式に出席したときすら、「そんなことより仕事が嫌だ」と日記に記している。
私も昔は、こんなふうに人前に出て働くことになるなんて、想像もしてなかった。でも人間って慣れるもんだから、私もいつかは仕事に慣れて、図々しく人前に出て顔をさらしてもなんとも思わなくなるんでしょう……ううっ、想像しただけでそんな自分、絶対に嫌~~!!
女房仕事文化に染まった将来の自分を想像した私は、「ほんっとうに無理」とゾッとしてきて、華やかな儀式も目に入ってこなかった。
かうまで立ち出でむとは思ひかけきやは。されど、目にみすみすあさましきものは、人の心なりければ、今より後のおもなさは、ただなれになれすぎ、ひたおもてにならむやすしかしと、身のありさまの夢のやうに思ひ続けられて、あるまじきことにさへ思ひかかりて、ゆゆしくおぼゆれば、目とまることも例のなかりけり。(『紫式部日記 現代語訳付き』紫式部、山本淳子訳注、角川ソフィア文庫、KADOKAWA、2010年)
「顔をさらす」必要のある仕事に抵抗があった
とにかく女房の文化に慣れなかった、というより慣れたくなかったらしい、紫式部。「顔をさらす」必要のある仕事に、かなり抵抗があったらしい。しかし彼女が仕事に対して無気力だったかといえば、そうでもない。実は紫式部日記には、職場の同僚たちの仕事っぷりに対する批判もきっちり記録されている。
これは、とある貴族の男性がやって来て、女房たちに仕事を頼んだ日の日記。その時の対応があんまりだった……と紫式部は嘆いているのだ。
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