実は仕事嫌いで毒舌、紫式部が書いた「悪口」の中身 2024年NHK大河ドラマの主人公の実像に迫る

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源氏物語を読む前に注目したいのが、紫式部の人となり。紫式部は宮中の行事を記録した日記を残しており、現在『紫式部日記』として読むことができるのだ。

紫式部は当時、中宮彰子(藤原道長の娘)の女房として仕えていた。が、実は彼女だってもともとはそんなに身分は低くなく、地元では蝶よ花よと育てられた身。しかし紫式部は、夫と結婚し一児の母になったと思いきや、夫が急死してしまうのだ。

こないだまでそこそこの身分のお嬢様だったのに、突然未亡人になり、そして突然「宮中で働かない?」とスカウトされた紫式部。女房として働き始めた彼女にとって、宮中での生活は、苦労も多い場所だったらしい。

現代の私たちと同じように、「ああ仕事いやだ~」と嘆いている日記が残っている。

「寒い、寒い、もうこんな仕事いやだ」

例えば、中宮彰子が、私邸から内裏へ帰ってきた日のこと。里帰りに一緒に着いていった紫式部は、中宮が内裏へ戻るタイミングで一緒に帰って来る。しかし帰ってきたらもう夜も更けていた。……京都の冬の夜、そのへんの部屋でとりあえず寝ようとするにも、寒い。紫式部は同僚と一緒に「寒い、寒い、もうこんな仕事いやだ」と愚痴を言い合っている。

細殿の三の目の局で私が横になっていると、同僚の小少将の君もやってきた。「宮仕えの仕事って、きついし、つらいよねえ!?」と私は彼女と散々愚痴を言い合った。

寒くてしょうがないので、とうとう私たちは寒すぎて硬くなった衣を脱いで横に置き、綿入りの分厚い衣を重ね着することにした。そして香炉に火をつけてあったまる。「しょうがないんだけど、こんなみっともない恰好しちゃって恥ずかしいわ」と2人で嘆き合った。

しかし間の悪いことに、今日に限って侍従の宰相、左の宰相の中将、公信の中将などたくさんの男性たちがあいさつをしに来る。

「なんでこんな恰好してる日に限って来るわけ!? もう今夜はいないものだと思われたいんですが!?」と内心ぶちぎれ。たぶん誰かが今日はあの子たちがここにいるよって言ったんでしょう……。

「明日朝早く出勤しますね~。今日は寒すぎてゆっくりお話もできませんし」と言いつつそそくさと帰る男性陣の後ろ姿を、私は見つめた。うーむ、あんなに早く帰りたがるなんて、家でどんな素敵な奥様が待ってるっていうんだ。

いや、これは私が未亡人だから言ってるんじゃなくて。

<原文>
細殿の三の口に入りて臥したれば、小少将の君もおはして、なほかかるありさまの憂きことを語らひつつ、すくみたる衣ども押しやり、厚ごえたる着重ねて、火取に火をかき入れて、身も冷えにける、もののはしたなさを言ふに、侍従の宰相、左の宰相の中将、公信の中将など、次々に寄り来つつとぶらふも、いとなかなかなり。今宵はなきものと思はれてやみなばやと思ふを、人に問ひ聞きたまへるなるべし。

「いと朝に参りはべらむ。今宵は耐へがたく、身もすくみてはべり」など、ことなしびつつ、こなたの陣のかたより出づ。おのがじし家路と急ぐも、何ばかりの里人ぞはと思ひ送らる。わが身に寄せてははべらず。(『紫式部日記 現代語訳付き』紫式部、山本淳子訳注、角川ソフィア文庫、KADOKAWA、2010年)

寒いなか、なんとか同僚と身を寄せ合って寝ようとしているのに、仕事場の男性たちが来て、相手をしなければいけないことに内心腹立たしく思う紫式部。「今宵はなきものと思はれてやみなばや」なんて、「今夜はもういないもんだと思ってくれ~」という本音がかなり出ていて面白い。

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